【特集】
序説 ● 栗原泰之
肺臓は,気道が外界と直接交通し,内部では右心系を介して全身からのすべての静脈血液を受け止め,さらに気管支動脈から動脈血を,胸管からリンパ液も受け入れ,様々な疾患の窓口を有している臓器である.また臓器内には大量のマクロファージを肺胞腔に有し,宿主の免疫能を反映しやすいという独特な環境もある.このため,肺疾患の原因も多様性に富み,感染や腫瘍から,血管炎やアレルギー免疫疾患,そして奇形や“特発性”と名のつく原因不明の病態など,肺疾患名には枚挙にいとまがない.よって鑑別疾患が膨大となり,多くの初学者の障壁となっているのは事実であろう.
しかし,さらにまずいことに,こうした多様な内因・外因子は,事態の複雑化にも寄与しているのである.つまり,同じ疾患であるにもかかわらず,上述した複数因子の個々の影響力の差や解剖学的な差異により,結果として我々が目にする表現型が多彩となり,我々放射線科医は,各疾患の画像パターンの幅広いスペクトラムに翻弄されることとなる.このためいくら教科書を熟読しても,なかなか正診率の向上につながらない.その理由は,教科書に載っていないような非典型画像を呈することが多いからである.実際の臨床においては,教科書に載るような典型像を示す方が珍しいのではないかとさえ思えてくる.
放射線科医にとって大切なことのひとつが,臨床医からの質問や問い合わせにどこまで迫れるかである.昨今では画像診断に関する優良な教科書が巷にあふれているため,画像が典型的な症例はたとえ稀な疾患であっても,大抵の臨床医にも容易に診断できてしまう.このため,こうした症例は滅多に放射線科医に相談しに来ることはない.臨床医が重い腰を上げ放射線科の門を叩くときは,どれも非典型的な画像ばかりで,放射線科医にとっても難問ばかりである.画像を目の前にして目を白黒させながら苦戦を強いられた経験は誰にでもあるだろう.鉄人と呼ばれる人でも,チンプンカンプンで,ホームランを打つどころかバットにかすりもしない失態を経験しているはずである.できる放射線科医をめざすなら,稀な疾患の画像を知るより,よくある疾患の非典型画像についての深い知識と戦略法を修得することが重要なのである.僕は放射線科医の真の能力は,たとえ典型像と大きくかけ離れた画像を目にしても,些細なkey所見を丹念に拾い上げ,何がpriorityなのかを正確に判断し,結果として正診に導く能力だと思っている.
本特集では,“非典型画像の説明”というevidenceを固めることが困難な,大変険しい注文にもかかわらず,多くの鉄人と呼ばれる先生方に執筆の快諾をいただいた.呼吸器のcommon diseaseに関して基本をおさえるとともに,決して稀ではない重要な非典型画像を紹介していただいた.
そこいらの教科書には載っていない,美味しい情報が満載である.
結核 ● 堀部光子,蛇澤 晶ほか
サルコイドーシス ● 西本優子,野間惠之ほか
肺癌 ● 松迫正樹,栗原泰之
マイコプラズマ肺炎 ● 岡田文人,佐藤晴佳ほか
好酸球性肺炎 ● 荒川浩明
肺水腫 ● 藪内英剛,川波 哲ほか
過敏性肺炎 ● 上甲 剛
【連載】
すとらびすむす
あわ…泡 ● 藤本公則
画像診断と病理
Solid-pseudopapillary neoplasm ● 田辺昌寛,松永尚文ほか
ここが知りたい!
画像診断2015年6月号特集
「腫瘍に対する分子標的療法の現状と画像評価」● 増本智彦,遠藤正浩
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
骨軟部腫瘍 ● 青木隆敏
CASE OF THE MONTH
Case of November ● 二橋尚志,馬越弘泰ほか
The Key to Case of September ● 鈴木耕次郎,小川 浩ほか
おさえておきたい! PET/CT診断のポイント
第11回 その他の疾患(GIST,骨軟部腫瘍,小児腫瘍,炎症性疾患)● 北島一宏
Refresher Course
外傷のIVR ● 近藤浩史,棚橋裕吉ほか