【特集】
序説 ●松木 充(自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児画像診断部)
われわれ画像診断医が日常臨床で画像診断している場合,多くは目の前の画像や主病巣を観察するだけで即診断できるケースが多いと思う.例えば造影CTの依頼目的に肝硬変患者の精査と記載されている場合,多くの画像診断医は目の前の画像をみて,肝細胞癌の有無,門脈圧亢進症による合併症など,ある程度決まった手順で診断し,最後に他の臓器に目を通す.日常臨床では,このように目の前の画像を読影して済むケースが多い.しかし,目の前の画像や主病変を観察して,それだけでは診断を絞り込めず,また最終診断に至る前に違和感を感じ,立ち止まる瞬間を経験する.私の思う画像診断のエキスパートは,その立ち止まる瞬間を見極め,色々な角度で観察し,より正確な診断に近づける能力に長けた画像診断医のことをいうのだと思う.例えば,
①副所見にも気を配る:主病巣は非特異的な所見で,腫瘍性疾患なのか,炎症性疾患なのか,鑑別することすら難しいケースが多々ある.しかし,主病巣以外に加え重要な副所見に気づくことで,絞り込めることができる場合がある.例えば,付属器腫瘍をみて鑑別を絞り込むことは難しいが,大腸を観察して頑固な便秘を示唆する硬便をみればpeptide YY産生の卵巣カルチノイドを疑うことができる.
②カルテをチェックする:カルテで,現病歴,既往歴,身体学的所見あるいは血液所見をチェックし,診断を絞り込む.例えば頭部MRIのT2強調像にて両側レンズ核の腫大,高信号とその周囲を縁取る高信号,いわゆるlentiform fork signに遭遇した場合,原因として尿毒症が有名である.しかし,それ以外にもメタノール中毒やメトホルミン内服など多数の原因があり,カルテをチェックすることによって原因を含めた診断に絞り込むことができる.
③過去の画像を振り返る:腫瘍や炎症は進行が進めば進むほど鑑別が難しい場合がある.例えば右横隔膜下に充実成分を有した嚢胞性病変をみれば,誰しもが診断に難渋する.しかし,過去の画像を振り返り,横隔膜内膜症の存在をみれば,内膜症由来の悪性腫瘍(明細胞腺癌,類内膜癌)を疑うことができる.
④他のモダリティを見返す:いかなる場合も他のモダリティの画像所見を参考にすべきだが,すべての症例で実践することには限界があり,見極めと判断が重要である.例えば頭部MRIで高アンモニア脳症が疑われたら,カルテをチェックし,高アンモニア血症を確認する.さらに,その原因を追究するため同時に撮影された躯幹部のCTで膀胱に多発憩室を認め,壁に沿った石灰化が指摘されれば,ウレアーゼ産生菌によるencrusted cystitisを疑うことができ,原因を含めて診断することができる.
本特集では,臨床の場でご活躍されているエキスパートの画像診断医の先生方に執筆をお願いした.原稿はどれも魅力的な内容で,色々なパターンで立ち止まり,解決の糸口をみつけるのだと非常に勉強になった.以前と似たような画像をみて振り返ったり,チュートリアルで学んだ知識を活かしたり,立ち止まって解決したケースを論文化したり….ぜひ各先生方の珠玉の体験談を堪能していただきたい.
最後に,私自身,今までエキスパートにとって最も重要なのは知識と経験と思っていたが,小山雅司先生の原稿を読み,その中の反省と教訓で述べられた“手間を惜しまない”姿勢こそが,それ以上に重要なことであると考えさせられた.
序説 ● 松木 充
違和感を大事に −頭部画像を中心に急性期病院で経験した症例たち− ● 日野田 卓也
依頼医が予期していない疾患を診断するには −中枢神経領域の症例より− ● 金柿 光憲
埋もれがちな症例をつかまえる −涓滴岩を穿つ− ● 竹田 太郎
CTファースト時代の困った時の診断法3選 −情報不足のピンチをチャンスに変えろ− ● 木口 貴雄
骨軟部疾患 −非外傷性の多発骨折 / 膝蓋上嚢の液体貯留− ● 髙尾 正一郎,庄野 なほみほか
腫瘍か,炎症か? 臨床現場の分岐点 −紛らわしい症例から学ぶ− ● 星合 壮大
腹部病変を診断する時に気をつけておくとよいポイント −胸部やリンパ節や腹膜をみる− ● 古田 寿宏,神谷 勝ほか
局所の超音波所見からみる,想定すべき全身疾患 −原因不明の膝関節腫脹,陰嚢腫脹− ● 青木 英和
カルテチェックだけでなく,能動的に情報収集をしよう −依頼医とは密な連携を− ● 北村 弘樹
乳幼児をみたら!? −潜む異常を見つけ出せ− ● 小山 雅司
FDG-PET/CT −全身の糖代謝から推理しよう− ● 金子 揚,松尾 政之
主たる病変から目線を逸らす −その他の臓器が語る所見− ● 一色 彩子,水谷 聡ほか
【連載】
すとらびすむす
オン・サイト ● 村上 卓道
画像診断と病理
低異型度子宮内膜間質肉腫 ● 布澤 悠磨,田﨑 章子ほか
ここが知りたい!
画像診断2021年8月号特集
「CT再入門 −新技術で何がわかる?−」 ● 檜垣 徹
CASE OF THE MONTH
Case of January ● 中井 美里,村上 陽子ほか
The Key to Case of November ● 前原 陽介,永野 仁美
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
冠動脈と冠静脈 ● 宇都宮 大輔
読影レポートLesson
頭部編「硬膜下血腫 / 硬膜下水腫」 ● 勝部 敬,河原 愛子ほか
Refresher Course
脊髄癒合不全症の画像診断 ● 安藤 久美子,石藏 礼一