【特集】
序説 ●竹内 麻由美(徳島大学医学部放射線科)
妊孕性や生殖器の機能を温存する低侵襲治療の発達は,婦人科疾患に罹患した患者のQOL(quality of life)の維持・向上に寄与し,適切な診断や治療方針を決定する上で,画像診断に求められる情報の質や正確さも高まってきている.
子宮頸癌に対する広汎子宮頸部摘出術(radical trachelectomy)や,子宮体癌に対する黄体ホルモン療法の適応決定には,適切な条件のMRI撮像と,より詳細な読影が必要である.また,卵巣の胚細胞腫瘍や性索間質性腫瘍,上皮性境界悪性腫瘍や早期卵巣癌,あるいは子宮肉腫と紛らわしい画像所見を呈する変性筋腫や変異型筋腫,腺筋症性の病変などの子宮筋層病変をより正確に術前診断することは,過剰な侵襲の回避や妊孕性の温存に直結する.
本特集では,婦人科疾患における低侵襲治療の実際と適応および画像診断について,産婦人科医,病理医,放射線科医の視点から執筆していただいた.
近年発達してきた妊孕性や生殖器の機能を温存する低侵襲治療は,いずれも単に若年患者に対して標準治療を代替するものではなく,あくまでも特定の状況下でのオプションであるという理解と認識は重要である.特に悪性腫瘍では,機能の温存と転移・再発のリスクがトレードオフとなることもあり,十分なインフォームド・コンセントのもとに行う必要がある.そして放射線科医は,低侵襲治療の適応が想定される患者のMRI検査において,適切な撮像シーケンスと条件の指示を行い,適応の決定に必要かつ十分な画像情報を提供するべきであろう.
本特集では,まず婦人科悪性腫瘍(子宮頸癌,子宮体癌,卵巣癌)について,標準的な治療法に対するオプションとしての妊孕性および機能温存治療について,産婦人科医の立場から適応と画像診断に求められる情報を含めて紹介していただき,次いで子宮頸癌および子宮体癌について,放射線科医からMRIの撮像条件と読影時の留意点を概説いただいた.また,良性,境界悪性,悪性の鑑別や多彩な組織型の推定が妊孕性および機能温存治療の適応を決定する上で重要となる卵巣腫瘍については,適応となる腫瘍の病理像の特徴と鑑別を要する疾患について病理医の立場から解説いただき,さらに画像診断のポイントについて放射線科医から概説いただいた.そして,子宮温存術が考慮される子宮筋層病変については,まずIVRの視点からcommon diseaseである子宮筋腫の低侵襲治療の実際について紹介いただき,次いで,時に診断に苦慮する変性筋腫などの良性病変と子宮肉腫との鑑別のポイントについて概説いただいた.最後に,診断に有用と考えられるオプションとして,様々なadvanced MR techniquesを紹介した.
妊孕性や生殖器の機能を温存する低侵襲治療は日進月歩であり,データとエビデンスの蓄積により,適応や妥当性についても常に変化する可能性がある.放射線科医は,実臨床の動向や治療ガイドラインの更新を注視しつつ,たゆまぬ知識のアップデートが重要と考えられる.本特集がその一助となれば幸いである.
序説 ● 竹内 麻由美
婦人科悪性腫瘍に対する妊孕性・機能温存治療の実際 ● 西村 正人
子宮頸癌に対する妊孕性・機能温存治療のための画像診断 ● 尾谷 智史,木戸 晶ほか
子宮体癌に対する妊孕性温存療法のための画像診断 ● 藤井 進也,椋田 奈保子
子宮筋腫に対する低侵襲治療の適応と効果判定のための画像診断 ● 市川 新太郎,大森 真紀子ほか
子宮温存のための子宮筋層病変の鑑別診断 ● 國近 瑛樹,高濱 潤子ほか
妊孕性・機能温存が可能な卵巣腫瘍の病理診断 ● 柳井 広之
卵巣腫瘤に対する妊孕性温存治療のための画像診断 ● 北井 里実
妊孕性・機能温存治療のためのadvanced MR techniques ● 竹内 麻由美,松崎 健司ほか
【連載】
すとらびすむす
めぐり合わせ ● 谷川 昇
画像診断と病理
混合性胚細胞腫瘍 ● 菅井 康大,鹿戸 将史ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
消化管のCTとMRI ● 岡田 吉隆
CASE OF THE MONTH
Case of September ● 小池 将隆,喜馬 真希ほか
The Key to Case of July ● 金山 大成,赤澤 健太郎ほか
General Radiology診断演習
神出鬼没 ● 井上 明星
他科のエキスパートにお尋ねします−ここを教えていただけますか?
肝臓編 ● 山下 竜也,小林 聡
AI画像診断は,いま
AI の認証を取得するための方法と課題 ● 大塚 裕次朗,中村 優介
投稿 症例
腎盂へ鋳型状に進展した腎粘液管状紡錘細胞癌の1例
● 寺田 理沙子,安部 能崇ほか
Refresher Course
COVID脳症 ● 森谷 聡男,黒川 遼ほか