【特集】
序説 ●中本裕士(京都大学大学院医学研究科放射線医学講座[画像診断学・核医学])
"To be or not to be: that is the question." 劇作家シェイクスピアの『ハムレット』の有名な一節である.訳者によって様々な表現が知られているが,「生きるべきか,死ぬべきか,それが問題だ」が代表的なところであろう.我が身を振り返って,日常診療の画像診断業務では「腫瘍か,非腫瘍か,それが問題だ」と日常的に悩まされる機会が多い.CT,MRIをはじめとする形態画像診断ではもちろんのこと,腫瘍性疾患に利用されるFDG-PET/CT検査にもあてはまる.そこで今回は,「腫瘍か,非腫瘍か,それが問題だ -FDG-PET/CT-」を企画した.
臨床のPET検査で頻用されるPET製剤18F-フルオロデオキシグルコース(FDG)は,悪性腫瘍以外に限らず様々なものに集積し,活動性の炎症巣はその代表的なものである.FDGの集積程度で悪性腫瘍か否か鑑別の一助にならないか,FDG-PET検査が臨床研究として期待された時期もあった.しかしながら,悪性腫瘍でFDGの集積が低いものがある一方で,炎症や良性腫瘍などでも高集積をきたす病変が多々あることを経験し,病理診断の代用にならないことはすでに広く認識されている.90年代に遡るが,膵腫瘍の精査としてFDG-PET検査が行われ,当該病変に高集積をみとめたものの,最終診断は自己免疫性膵炎や結核性リンパ節炎であった症例がある.これらの症例では「他の部位に転移を示唆する異常集積をみとめなかった」という情報は得られたものの,少なくとも鑑別診断において得られる追加情報は乏しかった.原発巣の鑑別診断にFDG-PET/CT検査が期待されなくなってはいるものの,原発巣以外に何らかの集積をみとめた場合に,悪性腫瘍と関連する腫瘍性の集積か,またはすぐに治療を考慮する必要のない非腫瘍性の集積か,判断を迫られる状況はきわめて多い.実際のところ,組織を採取して病理組織学的に検討しなければ最終的に確定せず,画像診断の限界と言える.
病理診断による確定が必要となるのであれば,FDG-PET/CT検査のような画像情報は不要であろうか.ミクロの視点による病理診断が重要であるのは当然だが,PET検査で得られるマクロの視点に立った情報は,時にどのようなところに活動性の病変が存在しているかを教えてくれる.よって適切な生検部位の検討に役立つことはFDG-PET検査の利点の一つと考えられる.次に,全身における病変の分布パターンによって,疾患の推測が可能性となることがある.両側肺門,縦隔のリンパ節腫大に一致するように比較的対称な高集積を認めた場合,とりわけ筋肉に沿うような索状の集積をみとめればサルコイドーシス,腹膜に一致する広汎な集積が見られれば結核性腹膜炎の可能性がある.さらに唾液腺,膵臓,腎皮質,後腹膜線維症,前立腺などで集積が目立てばIgG4関連疾患を疑うなど,病変のありそうな箇所の集積パターンから疾患を思い浮かべ,結核であればT-スポットやクオンティフェロン(QFT),IgG4関連疾患疑いであれば血中のIgG4値の測定を促すことにより,適切な診断に近づくことがある.さらに,集積パターンから推測された疾患により,血液検査等で診断が確定し,不可避であるはずの生検も回避できた甲状腺機能亢進症のような症例もある.
FDGの集積部位は糖代謝の亢進部位が陽性描画されたものである.その病変が悪性腫瘍か否かで病期が変わる,治療方針が大きく変化する,といった場合には,当然ながら病理診断が必須である.一方で,マクロの情報を活かすことによって形態画像のみでは得られない,治療法に直結する情報が得られることもある.本特集で後述されるように,PETの全身像は丹念に読影すべきである.読影レポートにおけるキャプチャ像の1枚目には,検査で得られた病変の分布という重要な情報を伝えるために,当施設では全身のMIP像を貼ることが多い.
序説にかえて ● 中本 裕士
頭頸部 ● 子安 翔
胸部 ● 立石 宇貴秀,町田 洋一
上腹部 ● 野上 宗伸
泌尿生殖器 ● 倉田 靖桐,森畠 裕策ほか
骨軟部 ● 村上 康二
全身疾患(リンパ腫を含む) ● 中谷 航也
【連載】
すとらびすむす
経時変化を読み解く ● 石川 浩志
画像診断と病理
血管内リンパ腫 ● 鹿戸 将史,大江 倫太郎ほか
ここが知りたい!
画像診断2021年2月号特集
「院内発症の肺病変!−感染症vs.非感染症−」
● 石川 和宏,杉浦 弘明ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
画像をリファレンスとした,循環器臨床診断における機械学習
● 中原 健裕,奥田 茂男ほか
他科のエキスパートにお尋ねします−ここを教えていただけますか?
頭頸部編 ● 志村 英二,山内 英臣
CASE OF THE MONTH
Case of July ● 金山 大成,赤澤 健太郎ほか
The Key to Case of May ● 夕永 裕士,藤井 進也
General Radiology診断演習
帰ってきた感染症 ● 井上 明星
AI画像診断は,いま
放射線科医が知っておきたいAIの基礎 ● 渡谷 岳行
Refresher Course
WHO分類第5版(骨軟部腫瘍)画像診断編 ● 三宅 基隆