【特集】
序説 ●高瀬 圭
超高齢社会の到来と,それに伴う医療経済の変化に直面している現在において,持続可能で国民の幸福に効率的に寄与する医療体制の構築が求められている.レベルの高い医療を提供しながらも,無駄を省き,コストを減らし,医療の効果が経済的視点からも妥当で納得できるように,医療行為を評価し直す必要に迫られている.
そうした背景から,医療行為を行う際に,患者の「何に対して,どの程度有益なのか」に基づいて最善の医療を行おうとする“Value based medicine (価値に基づく医療)”が規範的な考え方となってきた.画像診断においても,その画像検査を評価することがどういった“有益さ”をもたらすかを理解した上で施行し,解釈することが必要となってきている.高齢化に伴い増加する循環器医療においても然りである.
AHA(American Heart Association)2019学術会議にて,安定狭心症患者を対象とした“ISCHEMIA試験”の結果が発表された.カテーテルによる冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)による血行再建群と至適薬物治療群にて,“中等度以上の虚血のある群”においても心血管イベントや総死亡に有意差が認められないというものであった.PCIを行っている循環器内科医には衝撃の内容であったと推察している.血行再建の適応決定には,個々の患者の状態を総合的に評価する必要があり,待機的なPCIは激減する可能性も出てきた.その中で,客観的評価法である画像診断は,適切な形態と虚血の診断のみならず,総合的なリスク評価にも役立つツールである.
平成30年度(2018年度)の診療報酬改定によって,安定冠動脈疾患に対する待機的PCI施行前の機能的虚血診断が算定要件とされ,冠動脈の形態診断に加えて術前の虚血評価の重要性が高まっている.放射線科医も,血管狭窄に加えて虚血の評価方法やその臨床的意義および診断のもたらすアウトカムについて理解した上で画像診断と治療を行わなければならない.
本特集では,主に放射線診断と循環器診療の分野の第一線で活躍している,わが国を代表する8名の先生方に,心血管画像診断の各モダリティとカテーテルインターベンションの最新の動向を,これまでのエビデンスや社会的意義を含めて解説いただいた.“Value based medicine”へのパラダイムシフトを迎えた時代において,心血管の画像診断,特に冠動脈狭窄と心筋虚血の画像評価を,評価に基づく医療の“価値”を考えた上で,どのように行い活用すべきかが,各領域の専門家から熱く語られている.
保存版として全体を何度もお読みいただきたい内容となっている.循環器のみならず,今後の“価値に基づく医療”の実践にお役立ていただければ幸いである.
序説 ● 高瀬 圭
超高齢社会における医療と循環器画像診断 ● 植田 琢也
ISCHEMIA試験の衝撃と虚血診断
−不要不急のカテーテル治療と,心臓カテーテル医が語りたがらない不都合な現実− ● 岩田 曜
Value based medicine時代の心臓CT ● 真鍋 徳子,常田 慧徳
Value based medicine時代の心臓MRI ● 木藤 雅文
Value based medicine時代の心臓核医学 ● 木曽 啓祐
冠動脈CTの検査法とFFR-CTの基本 ● 高木 英誠,大田 英揮
FFR-CTによる心筋虚血評価とPCIの適正化 ● 横井 宏佳
カテーテルによるFFR計測と冠動脈治療 ● 松尾 仁司
【連載】
すとらびすむす
“蒙古の怪人”をみて発信力や表現力について考えてみた ● 石神 康生
画像診断と病理
粘液線維肉腫 ● 原嶋 十考,中川 純一ほか
ここが知りたい!
画像診断2020年5月号特集
「腎・泌尿器の画像診断update」 ● 有田 祐起,片平 和博ほか
CASE OF THE MONTH
Case of October ● 堀 章裕,重里 寛ほか
The Key to Case of August ● 佐藤 力,東山 央ほか
General Radiology診断演習
モザイクと石灰化 ● 黒川 遼
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
子宮内膜症 ● 高濱 潤子
投稿 症例
脊髄動脈瘤破裂により頭蓋内くも膜下出血を呈した1例
● 新井 鐘一,植木 香奈ほか
Refresher Course
間質性肺炎を診断する上で知っておくべき知識 ● 澄川 裕充