【特集】
序説 ●遠藤正浩
『画像診断』2020年4月号の特集テーマとして,「基礎から学ぶ肺癌の画像診断」を企画させていただいた.
肺癌診療は,分子標的薬から免疫チェック阻害薬の台頭で,日進月歩の勢いで大きく変化してきている.診療にとって重要な基本的事項は,肺結節の質的診断をはじめとする肺病変の診断を確実に行うことと,TNM分類に基づいて肺癌の病期を正確に診断することである.肺癌のTNM分類に関しては2017年1月に,『肺癌取扱い規約,第8版』が刊行され,それに基づいて診断が行われている.主な変更点は,T因子が細分化されたこと,微少浸潤性腺癌を新たにT1miとしたこと,腫瘍の最大径は浸潤性増殖を示す部分と考え,thin section CTによるすりガラス成分と充実成分の最大径の測定から,後者を浸潤性増殖部とし,充実性成分径としたことである.一方で,ほとんどの施設でマルチスライスCT/ボリュームデータで収集した撮影が行われ,最近では,より高分解能の高精細CTの登場により,ますます空間分解能の高い画像提供が可能となり,被ばく線量を軽減してもノイズの少ない画像再構成も可能となってきている.さらに,画像処理技術も進歩し,各種のワークステーションを用いて,多断面のみならず3D画像や臓器内のsegmentationなども容易にできるようになり,肺癌の診断・治療にますます寄与できる画像提供がCTで可能となっている.
本特集では,これらの点を踏まえ,末梢肺癌の読影に際し,既存構造との関係を元に所見を解説していただいた.
末梢小型病変への診療方針も,sub-solid noduleならCTによる画像診断のみで診断的外科治療の方向へ進んでいる.そのCT診断,さらに充実型の結節や画像的に特徴のある粘液性腺癌,転移性肺腫瘍に関しても,鑑別診断と併せて,日頃から少し気になっている所見や,いつもの画像診断に少し追加して解説したい所見など,診断の基礎となる所見を中心に平易に解説していただいた.
また,CT診断に付加できるPET/CTの意義や悪性度の評価を解説いただき,肺癌の診断をより踏み込んだものとしている.肺門部肺癌の数は減少したが,根治を目指せる気管支形成を伴うような肺葉切除は大きな手術となるため,術前の腫瘍の進展診断がきわめて重要であり,切除可否の重要な診断ポイントを解説していただいた.
最後に,最新の肺癌の内科治療を知っていただき,経過観察や薬剤性肺障害をはじめとした合併症の診断にも,画像診断医が積極的に関わっていただけることを期待している.
本特集では,それぞれのテーマに関して,現在第一線でご活躍なさっている先生方に,初学者にもわかりやすく執筆していただいた.肺癌診断の基礎と最近の動向を知り,日常の診療において,先生方の読影に役立てていただければ幸いである.
序説 ● 遠藤 正浩
肺区域の画像診断−孤立性肺結節を正確に診断するために− ● 負門 克典
部分充実型肺癌の診断−典型例と非典型例− ● 梁川 雅弘,秦 明典ほか
充実型肺癌の診断 ● 佐藤 嘉尚,冨永 循哉
粘液性腺癌の診断 ● 鈴木 一廣,村上 康二
肺門部肺癌の手術適応診断のポイント ● 竹中 大祐
肺癌の3次元CT・PET/CT診断−原発巣の診断と悪性度− ● 岩野 信吾,伊藤 信嗣ほか
転移性肺腫瘍の診断−転移の機序と分布や形態からみた鑑別診断− ● 角 明子,近末 智雅ほか
画像診断医が知っておきたい肺癌内科治療 ● 宮脇 英里子,高橋 利明
【連載】
すとらびすむす
時は流れる ● 藤永 康成
『画像診断』40周年に寄せて
団塊の世代が高齢者層に突入! ● 福田 国彦
画像診断と病理
涙腺多形腺腫 ● 海地 陽子,坂根 寛晃ほか
ここが知りたい!
画像診断2019年11月号特集
「時系列から学ぶ呼吸器疾患の画像診断」 ● 石村 茉莉子,佐藤 晴佳ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
卵巣嚢胞性腫瘤の内容液 ● 高濱 潤子
CASE OF THE MONTH
Case of April ● 大木 望,上谷 雅孝
The Key to Case of February ● 瀬川 景子,上谷 雅孝
General Radiology診断演習
キーワードに敏感になりましょう ● 黒川 遼
Refresher Course
n-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)塞栓 ● 高尾 英正
「画像診断」各賞受賞者発表 第25回MVP賞,第16回BIE賞
CASE OF THE MONTH 2019年 成績優秀者発表
【読者アンケートのご紹介】
・原発性および転移性肺癌は一般の放射線科医が日々触れる機会の多い疾患である。一方、分子生物学的な分類や治療法は日進月歩であり、それに応じてTNM分類をはじめとする分類法も変化していく。こういった古くて新しい疾患を定期的に特集してくれると知識のブラッシュアップに役立つ。個々の論文も実臨床に即した、明日から「つかえる」内容でわかり易く、読んでいて楽しかった。
・特に今回良かったのが、特集冒頭の肺区域の診断、p.405-406の部分充実型結節の計測などのようにに実際の画像と重ねて、肺区域や計測法などを示しているカラーイラストだった。カラーのページ数には制約があると思うが、効果的な使い方のひとつだと思う。