【特集】
序説 ●髙橋 雅士
約1年前に,編集部から,”解剖から迫る呼吸器画像診断”というたいへん難しい企画を担当するように依頼された.
何故難しいかを以下に記す.
我々が日常行っている画像診断は大まかにいって次のような段階を踏んで行われる.
1. 正常解剖を理解する.
2. 病態が正常解剖にどのように分布し,あるいはその正常解剖を変化させていくかを理解する.
3. 2を示す病態の頻度,臨床所見との整合性によって鑑別診断を行う.
したがって,胸部画像診断を解剖から迫るのは至極当然のアプローチであり,「今さらながら,解剖から迫るといわれても……」という思いがあった.病変を解剖学と絡ませて,鑑別診断を論じてもらう,という企画ではあまりに表層過ぎるし,薄っぺらい特集号に終わってしまうのではないか.そこで,“解剖”というキーワードを敢えて日常臨床から切り離し,とことん解剖にこだわった病態生理を論じてもらうような企画を立ててみた.もちろん,解剖学と生理学は不可分の関係にあり,生理学的な病態の解釈にも言及していただくようにお願いした.
構成は,大きく,マクロ解剖とサブミクロ解剖に分けた.
マクロ解剖では,最初に,芦澤和人先生に無気肺をお願いした.無気肺の画像は簡単そうで実は奥が深い.無気肺の画像を本当に理解するには,胸郭内構造の深い解剖学的知識が必須である.この項では,虚脱肺の偏位の方向,正常肺の代償性拡張の仕方,正常構造の偏位など,肺葉・葉間裂・肺靱帯の解剖などを解説いただいた.
次に,肺の上下方向の解剖と生理を西本優子先生に,内層・外層の解剖と生理を藤本公則先生にお願いした.実は,各種疾患の肉眼的肺内分布は古典的ではあるが解明されていない点が多々ある.ただし,肺内での疾患の分布を理解することは,鑑別診断に役立つばかりではなく,肺の生理学からの説明を理解する必要があり,病態を形態学を超えて深く理解するのに役に立つ.西本先生には,肺循環,換気,リンパ流,PH,呼吸運動など,肺の上下の生理解剖の違いを基に各種病態の説明をしていただき,また病変の上下の分布による鑑別診断の基本を解説いただいた.藤本先生には,肺循環,換気,リンパ流,メカニカルストレスなど肺のcorticomedullary differentiationの観点から,肺野内層・外層の病変分布を詳細に解説いただいた.また,最新の研究仮説であるヘルパーT細胞の肺内分布との関連にも触れていただいている.
サブミクロ解剖では,二次小葉の解剖と生理学に準じて,小葉中心性病変を冨永循哉先生に,リンパ路に沿った病変を江頭玲子先生にお願いした.冨永先生には,二次小葉の解剖,HRCTでの見え方,小葉(細葉)中心の解剖学的概念,その肺野外層と内層でのとらえ方の違いなど,基本から詳細な鑑別診断の方法まで解説いただいた.江頭先生には,リンパ路の解剖と生理,リンパ路に沿って生じる様々な肺内病変の病態生理と画像所見について解説いただいた.また,小葉辺縁の線維化病変にも言及していただいている.
最後に,村田喜代史先生に肺胞隔壁性病変について,肺の微細構造と関連してレビューしていただいた.二次小葉,細葉,肺胞隔壁の解剖,二次小葉内の血管,リンパ管の生理学的知見,そしてこれらに関連したIPF/UIPにおける線維化,構造改変の機序,画像所見の成り立ちについて解説いただいた.
この特集号は,著者数のわりに,全体のボリュームが多いことがおわかりになると思う.つまり,この特集号には6人の先生方の渾身の力作が詰まっているということを意味している.この特集号をじっくり読んでいただき,肺の画像診断の奥深さを感じていただくとともに,個々の肺病変の病態生理を肺の構造面から再度認識していただければ,企画立案者・編集者としてこれに勝る喜びはない.
序説 ● 髙橋 雅士
無気肺の成り立ちと肺葉,葉間裂,肺靱帯の解剖 ● 芦澤 和人,森 美央
上肺野に多い病変,下肺野に多い病変 ● 西本 優子,野間 恵之ほか
横断面における内外層の肺病変分布−解剖学,生理学,システム生物学による考察− ● 藤本 公則
小葉中心性病変 ● 冨永 循哉,佐藤 嘉尚
リンパ路に沿った分布を呈する病変 ● 江頭 玲子,中園 貴彦ほか
肺胞隔壁性間質病変−IPF/UIPを中心に− ●村田 喜代史,新田 哲久ほか
【連載】
すとらびすむす
理想はマツコ・デラックス? ● 横山 健一
画像診断と病理
非浸潤性膵管内乳頭粘液性腺癌(IPMC) ● 浅野 雄大,金澤 右ほか
ここが知りたい!
画像診断2017年11月号特集
「頭部単純CT─読影の基本と偶発的所見のマネジメント─」
● 鈴木 通真,浮洲 龍太郎ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
CTで発見される子宮,付属器の偶発所見 ● 藤井 進也
CASE OF THE MONTH
Case of April ● 菅原 茂耕,伊藤 浩
The Key to Case of February ● 箱崎 元晴,伊藤 浩
General Radiology診断演習
第8 回 急速に進行する呼吸苦……どう考える? ● 木口 貴雄
他科のエキスパートにお尋ねします-ここを教えていただけますか?
胸部編 ● 一門 和哉
Refresher Course
精巣腫瘍の病期診断,治療効果判定,経過観察 ● 山田 香織
第23回「画像診断」MVP賞
第14回「画像診断」Best Invited Editor賞受賞者発表
CASE OF THE MONTH 2017年成績優秀者発表