【特集】
序説 ●森 墾
今回の特集の目的は,中枢神経系における水の動態について理解を深めることにある.
中枢神経系における水の動態を知ることは,様々な疾患の発症機序や病態の解明へとつながる.例えば,最近では脳脊髄から血管内や脳脊髄液内へ排泄される可溶性蛋白質や代謝産物のクリアランスの異常が,脳アミロイド血管症やAlzheimer型認知症などの変性疾患に関与していると注目されている.どの臓器でも老廃物を除去しなければ機能を維持することができない.通常の臓器であれば,リンパ管が排泄路として機能しているが,中枢神経系ではその肝心のリンパ管は存在しないとされてきた.中枢神経は髄液の中に浮かんでいるので,わざわざリンパ管を介する必要はないだろうと思われていた.ところが,Louveauらは中枢神経系にもリンパ管があるとNatureに発表して大きな話題となった1).このように中枢神経系での水の動態については基本的なところではあるが,まだまだわからないことだらけである.
そもそもの共通理解をおさらいすると,脳脊髄の組織間には狭義の間質液(interstitial fluid;ISF)が存在する.一方,脳室内やくも膜下腔に存在する脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF)も,脳脊髄の広義の間質液とされている.容積で考えると前者は約280ml,後者は約140mlあり,中枢神経系での水の動態の理解には脳脊髄液をみているだけでは足りない.脳脊髄液の産生,動態や吸収を考えるうえで(脳血管や上述のリンパ管のほかに)脳脊髄内のglymphaticシステムも考慮する必要がある.このように複雑な髄液動態の理解や画像での評価ポイントを理解することは,臨床的意義が大きいと考える.
まずは,髄液がどこから産生されて,どこへ吸収されるのか,その途中での生理的な動態はどうなっているのかを概説していただいた.次いで姿勢の影響,特発性正常圧水頭症,脊髄空洞症についての画像診断や病態生理に迫る.引き続き,硬膜破綻によるdulopatiesの各疾患や,特に脳脊髄液漏出症について,画像診断のポイントや画像から推測される病態生理を概説していただいた.また,脊髄嚢胞性疾患を髄液動態の見地から解説していただいた.
このように髄液動態というものを解釈ツールの主軸に据えて最新の基礎的な知識から関連疾患の病態を俯瞰する特集を組んだ.髄液に関連する解剖や病態を簡潔かつ平易に解説するには相当な理解,経験や判断が要求されることから,今回とくに髄液動態に関する造詣の深い先生方に執筆をお願いした.馴染みのない用語などが頻出するので一見,取っ付きにくい分野ではあるが,わかりやすく簡潔にご解説いただいた.お忙しい中,ご尽力いただきましたことに,この場をお借りして篤くお礼を申し上げます.
本特集が読者の皆様にとって明日とはいわず,今日の診療から直ちに役に立つことを切に願っている.
■文献
1) Louveau A, et al: Structural and functional features of central nervous system lymphatic vessels. Nature 523: 337-341, 2015.
序説 ● 森 墾
脳脊髄液と脳間質液の吸収
−髄膜脈管外通液路を介する髄液経リンパ管吸収メカニズムを中心に−
● 三浦 真弘,内野 哲哉ほか
脳脊髄液による老廃物のクリアランス
−glymphaticシステム− ● 田岡 俊昭,長縄 慎二
脳脊髄液動態生理−bulk flowは存在しない− ● 山田 晋也
頭位・姿勢と脳脊髄液動態 ● 石田 翔太,宮地 利明ほか
特発性正常圧水頭症−画像所見と背景病理− ● 石井 一成
髄液動態からみた脊髄空洞症−脊髄内圧−髄液腔圧較差− ● 磯島 晃
Duropathies−多様な類縁疾患− ● 柳下 章
脳脊髄液漏出症 ● 鹿戸 将史,守山 英二ほか
脊髄嚢胞性疾患と脳脊髄液動態 ● 安田 宗義
【連載】
すとらびすむす
医学の公用語 ● 新本 弘
画像診断と病理
心臓アミロイドーシス ● 小河 七子,金澤 右ほか
ここが知りたい!
画像診断2017年10月号特集
「基本から身につく縦隔・胸膜の画像診断」 ● 原 眞咲,本多 修ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
直腸癌のMRI ● 岡田 吉隆
CASE OF THE MONTH
Case of March ●末永 博紀,伊藤 浩
The Key to Case of January ● 渡邊 宏剛,石井 士朗ほか
General Radiology診断演習
第7 回 サインを活かそう ● 木口 貴雄
他科のエキスパートにお尋ねします-ここを教えていただけますか?
産婦人科編 ● 桑原 章,竹内 麻由美