【特集】
序説 ●氏田万寿夫
縦隔と胸膜疾患の画像診断を基本から学べる特集号をお届けする.
縦隔腫瘍は,肺腫瘍に比べ発生頻度は低いが,その多くは発見時無症状であり,また病理組織診断が容易な領域ではないため,画像診断の役割はきわめて大きい.縦隔腫瘍の画像診断においては,まず病変が充実性か嚢胞性かを判断することから始まり,次に縦隔区分や年齢などに基づいて鑑別診断を進めるのが定石である.切除対象の腫瘍であれば,腫瘍の進展範囲や周囲臓器への浸潤の程度,胸膜播種の有無などの術前情報を臨床医へ提供すべきである.縦隔にはリンパ節が多数存在し,腫瘍,肉芽腫性疾患を含む炎症や感染などが病巣を形成するため,肺癌のリンパ節転移の有無や腫大リンパ節の鑑別診断における画像診断も重要である.縦隔の腫瘤性疾患やリンパ節腫大の画像診断は,基本である単純CTに,造影CT(時にダイナミックCT)を加えて行われることが多いが,MRIとPET-CTの有用性や適応を心得ておくことで診断の幅が広がり,疾患を絞り込む上で役立つ.
先に述べたように縦隔腫瘍は検診などの胸部単純X線写真での異常を契機に発見されることが多く,悪性度の高い縦隔腫瘍を早期に指摘することは患者の予後を左右しかねない.そこで本特集では,最初に胸部画像診断の基本である単純X線写真で縦隔疾患を見逃さないために,押さえておきたい肺縦隔境界線やX線サインについて,筒井 伸先生に述べていただいた.次に縦隔疾患のメインテーマである縦隔の腫瘤性病変を取り上げた.縦隔のコンパートメントは,FelsonやHeitzmanを初めとして多く提唱されてきたが,放射線科,縦隔疾患を扱う診療科や解剖学の間で統一した見解は得られていない.2009年,日本胸腺研究会が上梓した縦隔腫瘍取扱い規約(第1版)の中で新たな縦隔区分法が記載され,2014年に英文で国際的に提案された.そこで,縦隔腫瘍の局在を論ずる際の基本である縦隔の区分について,取扱い規約の作成に携わった原 眞咲先生にご解説願った.続いて,縦隔腫瘍の中でも最も頻度の高い胸腺腫を代表とする胸腺上皮性腫瘍について,病理診断や病期診断のポイントを含めて本多 修先生に論じていただいた.縦隔には,腫瘍のほかにも先天性の嚢胞性疾患が発生するが,井手香奈先生に縦隔の嚢胞性腫瘤の鑑別診断について述べていただき,縦隔腫瘍の20〜30%を占める種々の神経原性腫瘍の画像および病理所見に関して,中園貴彦先生に詳細に記載していただいた.そして,日常診療で診断する機会の多い縦隔リンパ節腫大の画像診断について,室田真希子先生にわかりやすく解説していただいた.
さらに,“気胸と縦隔気腫”と“胸膜と胸水”というテーマを,それぞれ松迫正樹先生と三角茂樹先生にご執筆願った.気胸や縦隔気腫は救急疾患のひとつであり,単純X線写真で診断可能な疾患である.ただし,その原因疾患は多く,軽症から緊急を要する重篤な病態まで含まれる.胸水貯留もその成因は数多いが,画像のみでの診断は容易でない.わが国ではアスベスト関連疾患である悪性胸膜中皮腫を含む胸膜疾患は増加傾向であるが,ごく少量の胸水貯留が中皮腫診断の端緒となりうることは記憶に留めておきたい.
以上,本特集では多くのテーマを網羅した結果,ボリュームのある1冊となったが,タイトルのごとく縦隔・胸膜の画像診断の基本をマスターするに十二分の内容と思われる.ご執筆していただいた諸先生にはここに心より感謝を述べたい.
−越後平野に広がる稲穂の波を眺めつつ−
序説 ● 氏田 万寿夫
単純X線写真でみる縦隔─正常と異常─
● 筒井 伸,芦澤 和人ほか
縦隔の区分 ● 原 眞咲
胸腺上皮性腫瘍 ● 本多 修,梁川 雅弘ほか
嚢胞性腫瘤 ● 井手 香奈
神経原性腫瘍 ● 中園 貴彦,高瀬 ゆかりほか
リンパ節腫大 ● 室田 真希子,佐藤 功ほか
気胸と縦隔気腫 ● 松迫 正樹
胸膜と胸水 ● 三角 茂樹,福田 大記ほか
【連載】
すとらびすむす
あれから一年 ● 浦田 譲治
画像診断と病理
肝血管筋脂肪腫 ● 河合 信行,五島 聡ほか
ここが知りたい!
画像診断2017年5月号特集
「原因不明の間質性肺炎」 ● 酒井 文和,岩澤 多恵
投稿 症例
偶然発見された線毛性前腸性肝嚢胞と考えられる1例
● 阿部 寿徳,相馬 渉ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
卵巣癌の転移 ● 藤井 進也
CASE OF THE MONTH
Case of October ● 原 敏将,井上 優介
The Key to Case of August ● 浮洲 龍太郎,井上 優介
General Radiology診断演習
第2回 病態を推察しよう! ● 木口 貴雄
他科のエキスパートにお尋ねします-ここを教えていただけますか?
肝臓編 ● 有田 淳一,渡谷 岳行
Refresher Course
大腸癌診療におけるMRIの役割 ● 井上 明星,大田 信一ほか