【特集】
序説 ● 倉林 亨
口腔領域には様々な疾患が生じるが,口腔癌を除けば,これまでCTやMRIによる画像診断が利用されることは少なかった.一般に口腔領域では視診や触診による診断が容易であり,生検による病理診断も比較的容易に得られることが,その主な理由であったと考えられる.近年,小照射野歯科用CTの普及に伴い,従来は投影画像が基本であった歯性病巣や顎骨疾患の診断においても3次元的な画像診断の有用性が認識され,CTやMRIの利用が増加している.そのため放射線科医の間では,口腔疾患に対する画像診断法の選択やその特徴的画像所見を効率的に学ぶために,この領域を対象とした実用的な参考書の出版が望まれてきた.しかし,頭頸部画像診断学の優れた参考書は多数出版されているものの,口腔領域の画像診断について十分に記載されたものは少ないようである.そのような中で,この度『画像診断』編集委員会にて,歯・顎・口腔の特集号の刊行を企画していただいた訳であるが,これは誠にタイムリーな企画であると感謝している.
本特集号では,まず画像診断の基礎となる口腔の複雑な解剖構造の理解のために,口腔解剖学を専門とする先生に詳細に解説していただき,次いでこの領域に生じる各種疾患について,画像診断を専門とする多くの先生方にご執筆いただいた.このうち歯と顎骨,顎関節の項目は,日頃からこれらの疾患を専門に取り扱っておられる歯科放射線科医の先生方にお願いした.すなわち,歯科以外の先生にはあまり馴染みがないと思われる歯科疾患の画像所見とその成因や治療法について解説していただき,顎骨骨髄炎に関しては歯性病巣の波及に加えて薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)についても言及していただいた.また,顎骨の嚢胞と腫瘍に関しては,ちょうどWHO分類の大幅な変更がなされた直後であったため,新分類に沿った内容で執筆していただいた.顎関節については,標準的なMRI検査のプロトコールを示すとともに,顎関節症に限らず,顎関節や咀嚼筋の障害をもたらす疾患全体について説明していただいた.一方,口腔領域に生じる扁平上皮癌やそれ以外の悪性腫瘍,軟部腫瘤については,頭頸部放射線を専門とする先生方にご執筆をお願いした.口腔の悪性腫瘍の項目では,その進展様式や治療計画のために重要な画像所見に加えて,最適な撮像シーケンスについても記載していただいた.また,舌下間隙・顎下間隙の嚢胞性腫瘤の画像診断はこの領域における重要なトピックのひとつであり,その鑑別についてわかりやすく解説していただいた.
口腔領域の疾患の治療においては,しばしば医科と歯科との連携の重要性が強調されているが,これは画像診断においても同様であると考えている.本号では,画像診断の最前線で活躍されている放射線科医と歯科放射線科医の先生方にご執筆いただいたことによって,限られたページ数ではあるが,初学者から第一線の臨床医の先生まで活用していただけるような内容になったと自負している.ご多忙の中,ご執筆いただいた先生方には改めて感謝し,御礼を申し上げたい.
歯・顎骨および口腔の解剖学 ● 柴田 俊一
歯と歯周組織の疾患 ● 飯久保 正弘
顎骨の嚢胞と腫瘍 ● 泉澤 充,高山 香名子ほか
顎骨および周囲軟組織の炎症 ● 有地 淑子,木瀬 祥貴ほか
顎関節の疾患 ● 坂本 潤一郎,Ngamsom Supakほか
口腔の扁平上皮癌 ● 馬場 亮,山内 英臣ほか
扁平上皮癌以外の悪性腫瘍 ● 加藤 博基,加藤 恵三ほか
舌下間隙・顎下間隙の嚢胞性腫瘤 ● 辰野 聡
【連載】
すとらびすむす
神の創造 ● 竹原 康雄
画像診断と病理
結節性筋膜炎 ● 清水 辰哉,本杉 宇太郎ほか
ここが知りたい!
画像診断2017年1月号特集
「症例から学ぶMRIの基礎-臨床に直結する知識-」
● 増本 智彦,稲岡 努ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
神経放射線:抗MOG 抗体 ● 森 墾
CASE OF THE MONTH
Case of June ● 東 美菜子,平井 俊範ほか
The Key to Case of April ● 下村 明,平井 俊範ほか
救急CT診断演習
第10回 脳梗塞疑い ● 木口 貴雄
新連載
他科のエキスパートにお尋ねします-ここを教えていただけますか?
第1回 脳神経編 ● 宮嶋 雅一,青木 茂樹