【特集】
序説 ● 上甲 剛
原因不明の間質性肺炎に関する画像診断には現在激震が走り,驚くべきパラダイムシフトが生じている.そのパラダイムシフトは,
1)2011年,米国胸部学会・欧州呼吸器学会・日本呼吸器学会・南米胸部学会合同特発性肺線維症のガイドラインで,特発性肺線維症がCTと臨床所見のみでも診断可能になったこと,
2)2013年に,新しい特発性間質性肺炎の分類が,米国呼吸器学会・欧州呼吸器学会から合同で提唱されたこと,
3)薬剤性肺障害,胸部外科手術後の急性肺傷害や重篤な放射線性肺炎の発症のリスク因子に,特発性肺線維症の伏在が同定されたこと,
4)今まで治療薬のなかった特発性肺線維症に抗線維化薬という治療薬が開発され,その適応にはCTで特発性肺線維症を同定することが外科生検未施行例では必須となったこと,
の4点から生じた.特に1)3)4)から生じる特発性肺線維症の画像診断の重要性のいっそうの増加は,とりも直さず,放射線科専門医の当該領域における地位の向上および責任の重さの増大を意味するが,果たしてその責務に耐えているであろうか.
びまん性肺疾患を取り扱う施設には胸部放射線診断医が在籍せず,他領域の放射線科専門医や遠隔画像診断に画像診断を委ねている場合が多いが,多くの齟齬が生じていることを見聞きする.例えば,呼吸器内科医からの「どのタイプの間質性肺炎なのか」という問いかけに,間質性肺炎の存在のみを記述しサブタイプを記載しないとか,例えサブタイプが記載されていても,蜂巣肺がみられないというだけの理由で,特発性肺線維症を非特異性間質性肺炎(non-specific interstitial pneumonia;NSIP)と診断されるといった事象は日常臨床の中で数多い.その結果,今まで治療法がなくやっと抗線維化薬という福音がもたらされたはずの当該患者の治療の機会を奪っている.また,「放射線科専門医が特発性肺線維症と診断してくれないので,抗線維化薬投与ができない」との呼吸器内科医の訴えも製薬会社に届いている.
また,2013年の特発性間質性肺炎の分類では,従来のwaste basketではなく,将来1つの疾患となりうる1群としてくくるために“分類不能の特発性間質性肺炎”が明確化され,その候補として気道関連の間質性肺炎やfibrosing organizing pneumoniaなどに注目が集まっているが,そのことも臨床現場の混乱に拍車をかけている.
そこで本特集では,本誌リフレッシャーコース「原因不明の間質性肺炎−画像診断医が要求されていること,知っておくべきこと−」(p.603-612参照)との補完のもと,そういった当該領域での混乱を少しでも減少させるため,この分野に精通した7人の先生方に問題提起から概念の整理,その画像所見までを詳細に解説していただいた.本特集が当該領域の診療の向上の一助となることを望んでやまない.
原因不明の間質性肺炎画像診断のニーズ
-呼吸器内科医の立場より- ● 近藤 康博
肺癌診療における原因不明の間質性肺炎画像診断の意義
● 大木 望,芦澤 和人ほか
IPF/UIPとNSIP ● 酒井 文和,楊川 哲代
AIPとCOP ● 一門 和哉
喫煙関連間質性肺炎 ● 岩澤 多恵,武村 民子ほか
稀な間質性肺炎と稀な病理形態に対する画像診断 ● 上甲 剛
分類不能特発性間質性肺炎の概念と画像診断 ● 藤本 公則
特発性と診断する前に ● 野間 恵之,田口 善夫ほか
【連載】
すとらびすむす
放射線科医のひそやかな愉しみ ● 竹内 麻由美
画像診断と病理
線維莢膜細胞腫 ● 清水 辰哉,本杉 宇太郎ほか
ここが知りたい!
画像診断2016 年12 月号特集
「急性腹症の画像診断」 ● 下平 政史,子安 裕美
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
スポーツ障害 ● 青木 隆敏
CASE OF THE MONTH
Case of May ● 寺田 珠沙,長町 茂樹ほか
The Key to Case of March ● 新川 慶明,新川 仁奈子ほか
救急CT診断演習
第9 回 性別が違えば,考え方も変わる ● 木口 貴雄
Refresher Course
原因不明の間質性肺炎
─画像診断医が要求されていること,知っておくべきこと─ ● 上甲 剛