【特集】
序説 ● 松木 充
最近,自分の講演の題名に「Logic-based diagnosis from the images−論理的な画像診断」をよく使う.その過程で重要な項目として,1)知識(knowledge),2)経験(experience),3)想像力(imagination),4)創造(creation),5)集中(concentration)を挙げている.
1)知識(knowledge):knowledge is power!というように知識がないと所見が拾えない,あるいは診断できないことが多々ある.特に最近は遺伝子診断が進んで,新しい疾患概念が登場し,またWHO分類にも新しい病理名が記載され,それに対応しないと放射線科医はなかなか正確な診断にたどり着けないことがある.
例えば最近,tubulinopathyという疾患概念を耳にすることがあると思う.tubulin遺伝子変異による脳の形成異常で,滑脳症(lissencephaly)や一部の多小脳回(polymicrogyria)などが含まれ,筆者自身も雑誌で見かけたが深いところまで理解していなかった.先日とある研究会で,東京医科歯科大学O山先生から,tubulinopathyでは線条体が融合して内包前脚が消失するようなdysmorphic basal gangliaをMRIで高率に認めるということを教わった.知識がなくても拾わなくてはいけない所見かもしれないが,やはり知識がないと…….文献検索すると“Polymicrogyria with dysmorphic basal ganglia? Think tubulin!”(Clin Genet 85: 178-183, 2014)という論文に遭遇する.ん〜! knowledge is power!
2)経験(experience):知識だけの系統だった診断だと,どうしてもピットフォールに陥りやすい.一見,非特異的な白質病変に遭遇した場合,特定の診断に絞れなくても経験が豊富だと,腫瘍,脱髄,血管炎,梗塞,静脈うっ滞など大きなくくりに分類し,そこから特定の診断に迫れる.
3)想像力(imagination):知識と経験がない想像力では単なる空想にすぎない.しかし,知識と経験だけでは解決できず,診断に近づけるためには一見飛躍ともいえる想像力も時に必要である.これに関しては,今回エキスパートの先生方が触れているため具体例は割愛する.
4)創造(creation):創造は知識,経験,想像力を基に診断を作り上げる過程として取り上げた.診断する上で,前記の3項目を重視しても,最終診断するにはお互いが葛藤し合うことがあり,そのうちでどれに比重を置くか非常に難しい場合がある.しかし,そのような場合でも我々は,case by caseであるが創造力を発揮し,正確な診断にたどり着かなくてはならない.
5)集中(concentration):野球の名プレイヤーでも集中力を欠くと,怠慢な送球で相手を進塁させることがある.最近,読影の現場で見かける光景に“ながらスマホ”がある.もちろん,スマホは検索する上で便利なツールであるが,読影中にスマホでメールを受信あるいは送信したり,業務に関係のないサイトを閲覧したりする人がいる.これって,集中していれば正確な診断にたどり着けるのに“ながらスマホ”のせいで大きな誤診を引き起こすことがある.
今回は,この5項目を意識しながら,エキスパートの先生方の診断過程を学んでいただきたい.そして,何よりも画像診断の楽しさを堪能していただきたい.
脳内データベースを鍛える ● 大場 洋
多彩な病態を示す“病”がある,その一端を一緒に診断しよう
● 德丸阿耶,村山繁雄
意思決定心理学:画像診断は論理的であれ! ● 森 墾
中枢神経領域の画像所見の考え方と読影の実際
● 松島理士,清水哲也ほか
病態のシミュレーションを行って精度を上げる ● 明石敏昭
典型例,非典型例から学ぶ異常所見のとらえ方−Parkinson症候群−
● 櫻井圭太,德丸阿耶ほか
経過を思い描く ● 坂田昭彦
What we know, what they know−臨床バイアスと画像バイアス−
● 住田 薫
【連載】
すとらびすむす
パートナーシップ ● 小林 聡
画像診断と病理
腎類上皮細胞血管筋脂肪腫 ● 本橋健司,藤井百合子ほか
ここが知りたい!
画像診断2015 年12月号特集
「Tumor or not tumor? That is the question」 ● 前田正幸,小山 貴
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
軟骨のMRI定量的評価法 ● 青木隆敏
CASE OF THE MONTH
Case of May ● 室田真希子,山本由佳ほか
The Key to Case of March ● 福田有子,小野優子ほか
Refresher Course
新WHO分類(2013年)に基づく軟部腫瘍の最近の知見 ● 元井 亨