【特集】
序説 ● 國松 聡(国際医療福祉大学三田病院放射線科)
私の先輩に「比較の○○」との異名をとった放射線科医がいる(今もご活躍中).その当時,シャウカステン(=X-ray view box,もはや死語?)の全面に,今回検査とありったけの過去検査のフィルム(これも死語候補? 逆に感傷的?)を掲示し,つぶさに画像所見の変化を拾うという読影スタイルであった.
私が放射線科の研修を始めた1990年代後半は,放射線画像が中央管理となっていない施設がまだ多く,また,今のような電子カルテはなく,放射線科においてカルテや過去画像をすべて参照できるわけではなかった.怠惰な私は,ともすると依頼用紙に手書きされた一言二言の今回の検査目的と,読影室に貸し出された直近の検査のフィルムおよびそのレポート(の放射線科控え)を拠り所として,今回検査のレポートを下書きし,その後に,幅広く情報を利用して診断する上級医による自分のレポートの添削結果をみて反省することが多かった.
時代は変わり,放射線画像は中央診療部門で管理されることが当たり前となった.また,日常の放射線診断業務の半数以上を,症例の経過観察目的での画像検査が占めるようになった.悪性腫瘍術後の転移再発検索をはじめとして,化学療法や放射線治療の効果判定,肺結節や膵嚢胞病変の経過観察など,臨床ガイドラインの拡充や,医療の質への意識の高まりとともに,経過観察目的の放射線画像検査は増加する一方である.昔に比べ過去画像へのアクセスが容易になった反面,検査件数が増えて多忙となった.多忙を理由にしてはいけないが,直近の検査と比較してパッとみてわかる画像上の変化がないことや,自分が誤差範囲内と思う計測値結果が得られたことを根拠として,「著変なし」あるいは「stable disease (SD)の範囲内」とレポートに記載することが,現状しばしばある.実際,それで事足りることが多いが,次回や次々回の画像の読影をいざ自分が担当することになった時に,「あれっ⁉ 前回は気にならなかったけれど,前々回と比べるとちょっと大きくなっている!」とか,「病変の見映え(テクスチャ)が緩徐に変わっている!」と気づいて,読影開始時に想定した増悪・安定・改善に関する認識を改めることを時々経験する.
本特集では,神経放射線診断の分野で豊富な経験を有する先生方に,経過観察目的での放射線画像検査において,定型的に確認すべきポイントや知っておくべき関連所見などを,実際の症例をもとに解説していただいた.疾患診断を着地点としたオーソドックスな放射線診断の教科書では取り扱いづらい内容である.本特集企画での私の無茶振りに対して,工夫を凝らして教育的かつ実用的な記事をご提供いただいた執筆陣の先生方に,改めて感謝申し上げる.
序説 ● 國松 聡
脳血管障害 ● 五明 美穂,土屋 一洋
脳動脈瘤・脳動脈狭窄症 ● 大山 潤,山田 浩文 ほか
硬膜動静脈瘻・脳動静脈奇形 ● 鈴木 通真,菊地 奈央 ほか
脳実質内腫瘍 ● 増本 智彦
脳実質外腫瘍 ● 山下 孝二,栂尾 理 ほか
脱髄・炎症性疾患 ● 向井 宏樹
認知症・変性疾患 ● 松末 英司,井上 千恵 ほか
【連載】
すとらびすむす
個の力とチーム力 ● 田上 秀一
画像診断と病理
前立腺導管腺癌 ● 池田 織人,秋田 大宇 ほか
ここが知りたい!
画像診断2024年6月号特集「治療に役立つ腹部画像診断レポートのポイント」
● 福倉 良彦,井上 明星,上野 嘉子
Case of the Month
Case of November ● 阿保 斉
THE KEY TO Case of September ● 香田 渉,片桐 亜矢子
続General Radiology 診断演習
もやもや感 ● 松下 周
読影レポートLesson
リンパ節編「悪性リンパ腫の診断」 ● 今井 祥吾
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
腸重積の非観血的整復術不成功 ● 細川 崇洋,佐藤 裕美子 ほか
Refresher Course
近年の心臓弁膜症における画像診断とのかかわり ● 折居 誠