【特集】
序説 ● 松本俊郎
今から20数年も前になるが,後に私の学位論文(Uneven fatty replacement of the pancreas: evaluation with CT. Radiology 194: 453-458, 1995)となった研究をしている際,はじめて膵には腹側膵原基,背側膵原基があり,2つの膵原基が癒合して膵が形成されることを知った.そして,2つの膵原基の解剖学的構築の違いが,不均等脂肪置換(浸潤)に深く関与しているものと結論づけた.恥ずかしながら,それ以前には全く発生学に興味を抱いてなかった.というか,この研究論文も第3世代のCTを用いた10mm-sliceでの評価であり,この時代では発生学に興味をもとうとしてももつすべがなかったというのが,正直なところかもしれない(言い訳かもしれないが).
しかし,時は奇しくもhelical CTからmulti-detector CT(MDCT)時代へと変遷し,さらにMRIも高分解能画像を提供できるようになり,これまでみたくてもみえない小構造がはっきりとみえるようになり,様々な正常異型・奇形を放射線学的手法にて確実に診断できる時代となった.したがって,今の時代でこそ,発生学に裏づけされた正常異型・奇形の知識は,無駄な検査や不必要な手術をストップさせる意味で,臨床上重要であるといえる.
上腹部領域は多くの臓器が含まれるため,正常異型・奇形の種類も組み合わせも多岐にわたり,また,これらに関連した疾患が発症する頻度も他の領域と比べ高い.今回の特集では上腹部領域を専門としない放射線科医でも,
1)variation & anomalyを腫瘍と間違えないよう,読影レポートにその旨を記載できる,
2)手術に関連する重要な血管系・導管系の正常異型を理解する,
3)上腹部臓器・間膜のvariation & anomalyに関連する重要な疾患を知る,
の3点をねらいとして掲げた.ただし,通常anomalyはvariationの範疇に含まれるため,本来ならば企画のタイトルを“variation”単独もしくは“normal variation & anomaly”にすべきであったが,短いタイトルで正常異型と奇形の両方のニュアンスを伝えたくて,敢えて“variation & anomaly”というタイトル語尾を採用させていただいた.したがって,ここでのvariationはnormal variation(正常異型)を意味することを,あらかじめお断りしておきたい.
さて,今回は各領域で専門的に活躍されている若手〜ベテランの先生方に執筆をお願いしており,明日からの日常診療に直結する素晴らしい内容に仕上がっているものと確信する.ぜひ,本書を日常臨床の場に置いていただき,「これではないか」と思った時に手にとって確認していただけたら,編者および著者一同にとって幸いである.
上腹部臓器(肝胆膵脾):間膜の発生 ● 松本俊郎,森 宣
肝 ● 小林 聡,南 哲弥ほか
胆道(胆嚢胆管) ● 竹口隆也,衣袋健司
膵実質 ● 清永麻紀,松本俊郎ほか
膵管系 ● 五ノ井渉,林(山川)貴菜ほか
脾 ● 笹栗弘平,中園貴彦ほか
胃・十二指腸および周囲間膜 ● 高司 亮,松本俊郎ほか
【連載】
すとらびすむす
行きつけのカンファレンス ● 大場 洋
画像診断と病理
エナメル上皮腫(充実型/多嚢胞型) ● 馬場 亮,尾尻博也ほか
ここが知りたい!
画像診断2015 年11月号特集
「主要肺疾患の重要な非典型画像所見」 ● 西本優子,岡田文人
投稿 症例
視神経症状が先行した女性の基底核ジャーミノーマの1例
● 毛利美弥,安藤久美子ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
子宮平滑筋肉腫 ● 藤井進也
CASE OF THE MONTH
Case of April ● 小野優子,西山佳宏
The Key to Case of February ● 木村成秀,小野優子ほか
Refresher Course
ガドリニウム造影剤の脳内蓄積─up to date ─
● 神田知紀,大場 洋ほか
第21 回「画像診断」MVP 賞
第12 回「画像診断」Best Invited Editor 賞受賞者発表
CASE OF THE MONTH 2015 年成績優秀者発表