神経膠腫
−診断から治療まで−
序説
●阿部 修
神経膠腫はその悪性度や進展範囲の広さのみならず,小病変であっても局在によっては生活の質や治療予後が左右される,現在でも治療の困難な疾患群のひとつである.しかし,近年では最新の画像診断法を駆使して,より詳細な質的診断・浸潤範囲を術前に決定し,その情報を脳神経外科手術時に実空間上に投影し,かつ腫瘍切除により生じた脳の偏位を術中MRIによって補正し,術後化学放射線治療を併用する集学的治療によって,緩徐ではあるが確実に生命予後の延長が図られている.通常の画像診断において石灰化や脂肪検出にはCTにおける特異性が強い.また病変の検出や進展範囲などの診断においては,MRIによる単純・造影T1強調像,T2強調像など従来の検査法が,依然重要な位置を占めており,これら従来法で正確な組織診断を下せるものも少なくない.そこで,本特集前半では画像診断技術の現状から最先端までを概説して頂いた.
第一に従来の形態・コントラスト情報から得られる神経膠腫の画像上の特徴やその診断能の限界について,第二に拡散強調像・拡散テンソル像,脳血流などの灌流像,MR spectroscopyなど最新のMRI手法によって形態情報に追加される有用な知見についてまとめて頂いた.第三に神経膠腫との画像上の鑑別が問題となる腫瘍性・非腫瘍性疾患も少なくなく,診療上治療戦略の全く異なるこれら疾患について鑑別点を中心に解説頂いた.さらに,上記形態情報では得られない,糖代謝の多寡による脳腫瘍再発と放射性壊死の鑑別や分化度診断のみならず,受容体発現など核医学検査から得られる腫瘍機能情報について,現況から今後の応用が期待されるトレーサについてご紹介頂いた.
後半では治療と,治療に役立つ病理診断に焦点をあてている.脳神経外科治療においては最大限の腫瘍切除とeloquent area温存の両立,術中MRI併用によるブレインシフト補正を可能とする最新脳神経外科手術のノウハウやその成果をご紹介頂き,テモゾロミドなどの化学療法と術後放射線治療との併用や,強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy; IMRT)などの最新の放射線治療法およびその治療成績について解説頂いた.また,臨床医が押さえるべき基本的な脳腫瘍病理学的知識を概括し,治療方針決定に役立つ最新の免疫組織学的手法を加えた病理診断法にまとめて頂いた.これらの集学的治療によっても悪性神経膠腫の治療成績は十分とはいえない状況であり,さらなる予後の改善・根治を目指した先進医療のひとつとして,ウイルスを用いた最新の治療法についてご紹介を頂いた.上記のように,今回の特集では現時点における最新の神経膠腫の診断から治療までを網羅的に,各々の分野の第一人者の先生方に解説頂くことにより,読者の方々に神経膠腫診療の現状を知って頂き,今後の診断および治療の展開の方向性をともに考えて頂けるような質の高い特集にすべく配慮した.ご執筆頂いた先生方には,初学者に必要な基本的事項の解説から,先端的手法までわかりやすく解説頂いており,読者の方々の今日からの診療に大いに役立つものと期待している.
形態からのアプローチ ●北島 美香,平井 俊範
形態を超えて ●吉浦 敬,樋渡 昭雄ほか
神経膠腫と紛らわしい脳神経疾患の鑑別 ●相澤 拓也,坂口 雅州ほか
核医学検査−脳腫瘍の分子イメージング− ●百瀬 敏光,高橋 美和子
画像診断と外科治療の融合 ● 若林 俊彦,夏目 敦至ほか
放射線治療の現状と展望 ● 芝本 雄太,竹本 真也ほか
病理診断−適切な治療法選択のために− ● 中里 洋一
新しい治療法の確立を目指して−悪性脳腫瘍に対するウイルス療法−
● 稲生 靖,藤堂 具紀
連載
すとらびすむす
放射線科って何をするとこなんですか? ●佐々木 康夫
画像診断と病理
十二指腸癌 ●関口 隆三,五十嵐 誠治ほか
ここが知りたい!
画像診断2011年7月号特集
「脳のcommon diseaseの画像スペクトラム─よくある疾患は多岐多彩─」
●菊池 恵一,野口 智幸ほか
投稿 症例
経過が画像に反映されたと考えられる肝型Wilson病の1例
● 坂本 桂子,井田 樹子ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
神経放射線 ●菅 信一
CASE OF THE MONTH
Case of December ● 大内 恵理,山﨑 郁郎ほか
The Key to Case of October ● 大内 恵理,山﨑 郁郎ほか
Refresher Course
上皮性卵巣癌の術前診断
─MRIと血清腫瘍マーカー(CA125,CA19-9,CEA)を用いて─
● 田中 聖道,寺澤 理香ほか