【特集】
序説 ● 伊東克能(山口大学大学院医学系研究科放射線医学講座)
日常診療でよく遭遇する“common disease”は,それぞれの疾患で特徴的・典型的画像所見がすぐに頭に思い浮かぶものの,教科書の依頼原稿や学生への講義資料作成などで“common disease”の典型例を提示するために過去画像を検索してみると,典型的画像所見がそろっている症例は意外と少なく,むしろ非典型的画像所見,バリエーションに富んだ所見を呈するものの方が多く,典型例の選択に時間がかかることがあります.一方,日常診療において,特徴的所見がそろっていない,あるいはよくわからない画像所見を呈する症例に遭遇した場合,稀な疾患よりもよくある疾患の非典型像を考えた方がよいといわれますが,この非典型例をまとめて提示しているテキストは意外と少なく,その意味でも本特集は非典型像を知識の引き出しに整理しておくのに大いに役立つと思います.また,稀な疾患や他疾患がcommon diseaseと類似した画像所見を呈することもしばしばみられ,鑑別診断を複雑にする場合もあります.
本特集では,①common diseaseの典型的な画像所見を呈する症例を提示し,様々なmodalityでの画像所見について記載,②common diseaseとして挙げた疾患の非典型的画像所見を呈する症例の提示と,どの点が非典型的かについて解説(多彩な画像パターンやバリエーションを提示),③稀な疾患や他疾患がcommon diseaseの典型例と類似した画像所見を呈した症例の提示と,その中でも鑑別点となる画像所見の解説を基本的な構成としており,その手順で読み進めていただけたらと思います.
ここで,1例提示します(雑誌の図を参照).発熱とCRP上昇があり,造影CT動脈相では内部低吸収で隔壁様の構造がみられ,腫瘤辺縁に早期濃染とその外側に低吸収域が認められ,double target signを呈しています.その外側には炎症波及様の濃染域もみられます.臨床診断も肝膿瘍で(この時,病変部の穿刺も実施され,好中球優位+リンパ球浸潤主体の像),抗菌薬で経過がみられ,一時的には腫瘤サイズが縮小したが,その後,再増大し,最終的に肝細胞癌と診断されました.膿瘍でも病期によっては内部に肉芽形成を伴うことはあるにしても,隔壁様構造が充実成分に近いことに,やや違和感があるかもしれません.臨床所見,血液検査所見は画像診断を進める上で重要で,それらを参照することが推奨されますが,検査依頼書やカルテに記載されている臨床情報,臨床診断名に引っ張られすぎないようにすることも,心に留めておくべきかもしれません.
今回,ご執筆いただいた先生方には心より感謝申し上げます.いずれも腹部領域のエキスパートであり,期待どおり(rather more than expected!) の内容となっています.診断に迷うような症例に遭遇した際には,ぜひ本特集を紐解いて鑑別診断の一助としていただけることを願っています.
序説 ● 伊東 克能
肝血管腫 ● 伊原 研一郎,伊東 克能
肝細胞癌 ● 米田 憲秀,小坂 一斗 ほか
胆管細胞癌 ● 小松 大祐,雄山 一樹 ほか
限局性結節性過形成 ● 高山 幸久,村山 僚 ほか
肝膿瘍 ● 前田 章吾,中村 優子 ほか
脂肪肝 ● 西江 昭弘,藤田 展
急性膵炎 ● 井上 大,戸島 史仁 ほか
膵癌 ● 神吉 昭彦,福倉 良彦
膵内分泌腫瘍 ● 市川 新太郎,五島 聡
膵漿液性嚢胞腫瘍(SCN) ● 牧瀬 智,藤田 展宏 ほか
胆嚢癌 ● 古田 昭寛
肝外胆管癌 ● 鈴木 耕次郎
【連載】
すとらびすむす
読影用モニタと目の解像力 ● 栗原 泰之
画像診断と病理
悪性Brenner腫瘍 ● 栗原 真帆,陣崎 雅弘 ほか
ここが知りたい!
画像診断2024年5月号特集「知っておくべき核医学診断・治療のミニマルエッセンス」
● 三宅 可奈江,奥山 智緒
続General Radiology診断演習
Think of “rare” horses ● 子安 翔
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
おいていかないで! ─ 知らないうちにv2になっている前立腺画像診断スコアリング─ ● 髙橋 哲
Case of the Month
Case of October ● 南 麻紀子,川井 恵一 ほか
THE KEY TO Case of August ● 吉田 耕太郎,山口 航 ほか
読影レポートLesson
血管編「内臓動脈瘤」 ● 縄田 晋太郎,小川 普久