【特集】
序説 ● 楠本 昌彦(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院放射線診断科),
江頭 玲子(佐賀大学医学部放射線医学講座)
呼吸器の病気は,肺癌などの腫瘍,肺炎などの感染症,間質性肺疾患や肉芽腫性疾患など,日常診療でよく目にするものが多く含まれる.一方,よく遭遇する疾患であるがゆえに,少し変わった画像所見を示すものもある.一般的な教科書には,この“少し変わった画像所見”を載せづらく,本来ならば滅多にないかもしれない,典型例や代表例の解説に終始してしまうこともある.
本特集「呼吸器のcommon diseaseにみる非典型的画像所見」は,我々2人で企画し,主に前半を楠本が後半を江頭が担当し,全体について相談しながら監修を進めてきた.本特集では,誰もがよく知っている呼吸器疾患の中で,少し典型像とはいえないもの,少し変わった画像所見を示すもの,ともすれば他の疾患をより考えてしまうような所見を示すものなどを,各領域に詳しい専門家の方々にご執筆いただいた.
肺癌は単一疾患というよりも,肺にできる様々な上皮性腫瘍の集合体である.単に組織型の差異のみならず,喫煙の有無,既存肺疾患の有無などによって画像所見には様々な変化が生じ,肺炎や良性疾患に似たものもみられる.結核症は,結核菌という1種類の病原体による感染症であるが,初感染か2回目以降の感染かによって,さらに宿主の免疫状態,すなわち生体の防御反応と結核菌量によって病態が異なり,そのことが画像所見に反映される.一方,非結核性抗酸菌症はMycobacterium avium complex(MAC)が大多数を占めるが,MAC症自体にも様々な画像所見がある上に,MAC症以外の少数派の非結核性抗酸菌症もあり,その多様性の理解は重要である.細菌性肺炎は最もよくみる呼吸器疾患であるが,もちろん,ひとくちに細菌といっても多様な種類がある.その中での典型例をまず理解した上で,やや変わった肺炎の画像について理解を深める必要がある.
間質性肺炎は最終診断が多職種合議診断であり,画像上は典型的といえないものでも,原因不明で組織学的診断がUIPパターンであれば特発性肺線維症になりえる.この予後不良な疾患の可能性を念頭に置くことは重要である.過敏性肺炎も個体の反応性,時間経過により多彩な所見を呈し,完全に否定できる所見が存在しないのも現実だ.器質化肺炎は肺胞上皮傷害に対する組織反応として生じるパターンのひとつで,原因も画像所見も様々である.傷害の強さや基礎疾患によっては進行性線維化に至ることもあり,非典型例も把握することで治療方針に寄与できるといえる.肉芽腫性疾患はサルコイドーシス,多発血管炎性肉芽腫症がお馴染みであるが,典型的所見を呈しやすい疾患だけに,稀に思いもよらない所見を呈し,診断に苦慮することがある.
本特集の“よく目にする病気の少し変わった画像所見”を知ることで,それぞれの疾患のもつ特徴,特に疾患の多様性について理解を深め,初学者から専門医まで日常診療の読影とその向上に役立つことを願っている.
序説 ● 楠本 昌彦,江頭 玲子
肺癌 ● 負門 克典,佐藤 嘉尚 ほか
結核 ● 轟木 陽,青木 隆敏
非結核性抗酸菌症 ● 宝関 明子,森本 耕三 ほか
細菌性肺炎 ● 國弘 佳枝,小林 大河 ほか
特発性肺線維症・過敏性肺炎 ● 江頭 玲子,武井 玲生仁
器質化肺炎 ● 澄川 裕充
感染症以外の肉芽腫性疾患 ● 冨永 循哉
【連載】
すとらびすむす
教育はおもしろい! ● 山本 憲
画像診断と病理
子宮体部原発神経内分泌癌 ● 八木 文子,秋田 大宇 ほか
ここが知りたい!
画像診断2024 年3 月号特集「押さえておきたい呼吸器疾患の画像診断 Case-based review」
● 中野 祥子,杉浦 弘明 ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
神経放射線 ─血液眼関門 ● 森 墾
Case of the Month
Case of August ● 吉田 耕太郎,山口 航 ほか
THE KEY TO Case of June ● 池之内 穣,佐藤 典子
続General Radiology 診断演習
死せざるもの ● 服部 真也,久保田 姫子 ほか
読影レポートLesson
婦人科編「出血を伴う子宮筋層腫瘤」 ● 坪山 尚寛,村上 卓道
Refresher Course
胎児MRI ─苦手意識を克服しよう!(前編) ● 中俣 彰裕 ,松木 充 ほか