【特集】
序説 ● 神田知紀(神戸大学大学院医学研究科放射線医学分野)
悪性腫瘍の診断は,内視鏡などで原発巣を発見してから,画像診断で進展範囲を検索することが原則であり,教科書も原発巣の画像所見を中心に記載されている.転移巣の性状について詳しく書かれた教科書は,私の知る限りごく一部の洋書にしかないと思われる.
一方,CTやMRIなど断層画像が撮影される機会が増え,転移巣から発見される悪性腫瘍が増加している.原発巣がはっきりとしない悪性腫瘍では,原発巣検索に腫瘍マーカーの測定や内視鏡,腫瘍の生検など様々な検査が必要であり,高い医療コストと診断までの長い時間が必要となる.画像診断医としては,転移巣発見時に原発巣として可能性が高い臓器も示唆し,最低限の検査と時間で原発巣の診断までたどり着けるようにしたいものである.
また,悪性腫瘍の生存率の向上とともに,近年,同時多発癌や異時多発癌と遭遇する機会が増加している.原発巣が複数存在する場合,転移巣がどちらの腫瘍からの転移かにより治療方針が異なることがある.例えば,甲状腺癌と肺癌が存在する場合,鎖骨上窩のリンパ節腫大が甲状腺癌からの転移の場合は手術適応となるが,肺癌からの転移では手術適応とならない.このようなケースでは,鎖骨上窩リンパ節腫大がどちらの腫瘍からの転移か,臨床医から判断を迫られることがたびたび起こる.
このように転移巣から原発巣を予測することは日常診療においてよくあることであり,転移巣の画像所見から原発巣を推定する方法に焦点を当てて,本特集を組ませていただいた.著者には,全身の画像診断に精通し,画像診断の勉強会で活躍されている先生方に,お忙しい中執筆をお願いした.いずれの先生方も転移巣の画像診断には思い入れが強かったのか,こちらからお願いした内容を大幅に超えるものに仕上げていただいた.ページ数の大幅超過で編集者から悲鳴が届いたが,おかげで本特集は初学者のみならずベテランの先生方が読んでも満足できる内容に仕上がっていると自負している.
この企画は,画像診断2023年増刊号『癌治療後の局所再発と転移の画像診断』(Vo.43 No.11)と内容が類似するという指摘もあったが,できあがってみると各々は似て非なる内容に仕上がっており,本特集と増刊号を合わせて読むと,より理解が深まると思われるので,まだ買っていない方は併せて購入することをお勧めする.
本特集を読んでいただいた先生方の明日からの臨床に役立つことを祈願して.
序説 ● 神田 知紀
1 頭部病変から予測する原発巣 ● 黒川 遼
脳転移の局在・画像所見から原発巣を当てる
─“迷”探偵にならないように─
局在総論/ 局在各論:下垂体
局在各論:髄膜
局在各論:脈絡叢/ 脳室内
特殊なCT吸収値・MRI信号
─ 石灰化・出血・形態:嚢胞性・その他─
2 頭頸部病変から予測する原発巣
リンパ節の部位から予測する
― 舌骨傍領域リンパ節― ● 子安 翔
リンパ節の性状から予測する①
― 側頸嚢胞の既往?― ● 子安 翔
リンパ節の性状から予測する②
― 石灰化+嚢胞性リンパ節― ● 子安 翔
リンパ節の性状から予測する③
― びまん性高吸収リンパ節転移― ● 子安 翔
眼窩内への転移 ● 櫻田 紘基,子安 翔
神経周囲進展,隣接する骨硬化 ● 櫻田 紘基,子安 翔
3 胸部病変から予測する原発巣 ● 山内 哲司,山田 彩 ほか
両肺に多発空洞性病変をみたら
haloを伴う多発肺結節をみたら
縦隔条件も要チェック
粟粒結核様の無数の粒状影を呈する肺転移
あたかも原発性肺癌のような形態をとる肺転移
CTでは一見正常にみえてしまう恐ろしい病態
肺やリンパ節,胸膜だけでなく,気管支内にも転移する
4 上腹部病変から予測する原発巣 ● 中井 雄大
石灰化を伴う肝腫瘍
嚢胞を伴う多血性肝腫瘍
腫瘍内脂質を伴う肝腫瘍と後腹膜リンパ節転移
周囲に限局性脂肪肝を来す肝腫瘍
α -fetoprotein(AFP)高値を示す肝腫瘍
多発膵多血性腫瘍
単純CTで高吸収を示す胆嚢腫瘍と小腸腫瘍
副腎腫瘍,これに気づけば一発診断
増大傾向の腎嚢胞? 既往の病理を振り返る
上皮性? 間葉系? 乳腺術後の右副腎腫瘍
5 下腹部病変から予測する原発巣 ● 松木 充
忘れた頃に出現…… これが別の部位に移動すると…… なるほど
確かに身体のあらゆる場所にできるが……,でも……
これであなたは名探偵,ぼくは今でも迷探偵
なぜ,ひとりぼっちになったのか?
恐るべきこんな小さな腫瘍が! 腫瘍の特徴を知ることが大事!
6 骨軟部病変から予測する原発巣 ● 塚部 明大
悪性の可能性のある骨軟部腫瘍をみた際には
多発する骨硬化性転移を来すのは?
溶骨性病変でおとなしくみえても
転移だけでなく
関節痛で撮像されたMRIで指摘された骨髄病変
時には特異的な所見を示す骨転移も
7 リンパ節病変から予測する原発巣 ● 神田 知紀
リンパ節腫大の分布
早期濃染するリンパ節腫大
石灰化を伴ったリンパ節腫大
癒合したリンパ節腫大
内部低吸収なリンパ節転移
【連載】
すとらびすむす
釣りとradiology の類似性 ● 曽我 茂義
画像診断と病理
IgG4 関連心房心筋症 ● 吉川 利弥,石田 正樹 ほか
ここが知りたい!
画像診断2023 年6 月号特集「骨軟部画像診断― 珠玉の症例集 Part 2」
● 藤本 肇,野崎 太希
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
正常下垂体と年齢・病態による変化 ● 細川崇洋
CASE OF THE MONTH
Case of November ● 御前 隆,久保 武
THE KEY To Case of September ● 久保 武
読影レポートLesson
リンパ節編「リンパ節転移の診断」 ● 今井 祥吾
続General Radiology 診断演習
三所見寄れば文殊の知恵 ● 懸高 浩規,神田 知紀
Refresher Course
Groove 膵癌の画像診断 ― その概念と診断法― ● 蒲田 敏文,井上 大 ほか