序説 ● 楠本 昌彦(国立がん研究センター中央病院 副院長/放射線診断科 科長)
各癌腫の生存率が年々向上し,癌の罹患者が増える中で,早期発見の割合が高くなり,かつ癌の治療法の向上によって,癌になっても長く生きられる人が増えてきた.そのような中で,癌の治療後の病態把握に画像診断がかかわる機会も増加し,また正確な診断と再発に対する正しい理解が放射線科医に求められている.
本増刊号では,“癌治療後の再発や転移の診断に画像診断がどのように対応していくか”を取り上げた.具体的には,それぞれの癌で,その治療法や進展形式を理解した上で,画像診断の立場から,いつ,どのような画像装置を用いて検査し,読影に際してはどのようなところに着目することが重要かを,各領域の専門医に記載いただいた.
治療後の画像での経過観察期間などについて,ガイドラインなどで推奨されているものがあれば,それをご紹介いただき,推奨のないものについては,そのことを明記した上で,実際的な対処方法についても記載いただいた.
再発が明らかになった画像については,治療終了直後の画像,再発が診断できた時より少し前の画像,再発診断時の画像などを組み合わせて解説いただき,再発診断について読者の理解を深めることができるようにした.また,一見再発のようにみえることがあるが,再発ではないと診断できる画像所見についても例解いただき,過剰診断を減らすことに工夫した.
さらに,治療後の遠隔転移が起こりやすい部位や頻度について,転移が起こりやすい時期などについて記載いただいた.遠隔転移を検出するための画像診断モダリティ,経過観察の期間についても触れてきただき,読者に役立つように配慮した.
今回,癌治療後の再発のための画像診断を取り上げたが,これは癌治療後の生存期間が長くなった現在,放射線科医に一定の役割が求められているからである.しかし一方で,多くの癌腫では治療後の再発を早くみつけても,予後にはほとんど影響しないのが現状である.
本書を通じて,再発診断について正しく理解いただき,放射線科医が臨床現場で困ったり萎縮したりすることが少なくなれば幸甚である.
序文 ● 楠本昌彦
1.脳 ● 鈴木 秀,國松 聡
2.頭頸部 ● 馬場 亮,藤岡大晃 ほか
3.肺 ● 佐々木智章
4.食道 ● 野村敬清
5.乳腺 ● 八木下和代,角田博子
6.胃 ● 鶴丸大介,西牟田雄祐 ほか
7.肝臓・胆管 ● 浅山良樹
8.膵臓 ● 棚橋裕吉,市川新太郎 ほか
9.大腸 ● 那須克宏
10.腎・尿管・膀胱 ● 髙橋 哲
11.子宮・卵巣 ● 坪山尚寛,大西裕満 ほか
12.前立腺 ● 新本 弘,江戸博美
13.悪性リンパ腫 ● 子安 翔
Collumn.常にそこにあって減らすべきもの ● 赤羽正章
癌の診断における画像診断の限界と患者の正しい理解へ ● 楠本昌彦