【特集】
序説 ● 黒川 遼(ミシガン大学放射線科 / 東京大学医学部放射線医学講座)
2021年に出版された『WHO脳腫瘍分類 第5版(WHO CNS5)』は,2016年の改訂第4版以来5年ぶりの大きな改訂であり,分子遺伝学的所見に基づいた中枢神経系腫瘍の診断,gradingの発展や,DNAメチル化解析を診断に活用していることなどが主な特徴である.これは日常診療に直ちに影響を及ぼす大きな改訂であるから,サブスペシャリティにかかわらず,放射線診断に携わる者として知っておかねばならない(例えば,diffuse astrocytoma,anaplastic ependymoma,grade IIIなどはいずれも過去の表現となった).WHO CNS5ではまずdiffuse gliomaが成人型と小児型に大きく分けられ,異なる体系で解釈されるようになった.日常診療で遭遇頻度の高い成人型diffuse gliomaについても,新分類でIDH野生型はglioblastomaのみが収載されるなど大きな改訂があり,astrocytomaのgrade基準やglioblastomaの分子遺伝学的基準も新たに追加修正された.このような改訂により,MRIで全く造影されず組織学的にも低gradeだが,分子遺伝学的基準によりglioblastomaと診断される症例“molecular glioblastoma”に遭遇する頻度が増えた.これまで低gradeと診断されていた腫瘍の中から,新分類ではgrade 4と診断される一群が生まれたために,過去の文献で蓄積されてきた知識が新分類では応用しづらいという別の問題も生じている.また,確定診断に必要な分子遺伝学的検査が十分に保険収載されていないため,「保険診療ではgliomaのgradeが確定しない」という問題も起き,現場の混乱を招いている.
本特集ではまず総論としてWHO CNS5での主な改訂点やその問題点を整理した.続いて,WHO CNS5から新たに収載された多数の脳腫瘍について,わが国を代表する神経放射線領域のエキスパート達に解説いただいた.新規収載された脳腫瘍の画像診断に関する本格的な日本語の解説書はおそらく本特集が初であり,非常に得難い知識が満載な1冊となった.WHO分類の改訂をよく知らなかった方にとっても,新規収載脳腫瘍の画像診断を学びたいというマニアな方にとっても,有用な特集になったと考える.ご多忙な中,腫瘍によっては画像所見の報告が乏しくまとめづらい内容をわかりやすく整理して解説してくださった執筆者の先生方に心から感謝する.
本特集の企画段階からご指導いただいた,私のミシガン大学でのメンターでもある森谷聡男先生が,本号の完成を前に急逝なさったことは大変残念でならない.森谷先生は脳腫瘍の画像診断がご専門のひとつで,WHO CNS5の元となる提言(cIMPACT-NOW)の段階から様々な新規収載脳腫瘍に着目され,その画像診断について私に学会発表や論文執筆の機会をくださった.本特集にも,森谷先生から教えていただいたことや,一緒に研究したことを元にした部分が多く含まれている.
序説 ● 黒川 遼
WHO脳腫瘍分類 第5 版(WHO CNS5)の主な変更点 ● 黒川 遼,黒川 真理子 ほか
Diffuse astrocytoma, MYB- or MYBL1-altered ● 藤原 政宏
Polymorphous low-grade neuroepithelial tumour of the young(PLNTY)
● 藤原 政宏,髙橋 洋人 ほか
Diffuse low-grade glioma, MAPK pathway-altered ● 池田 賢司
Diffuse hemispheric glioma, H3 G34-mutant ● 栂尾 理,山下 孝二ほか
Diffuse pediatric-type high-grade glioma, H3-wildtype and IDH-wildtype
● 岸 誠也,前田 正幸
Infant-type hemispheric glioma ● 岸 誠也,前田 正幸ほか
High-grade astrocytoma with piloid features ● 栂尾 理,山下 孝二 ほか
Diffuse glioneuronal tumor with oligodendroglioma-like features and nuclear clusters ● 原田 太以佑
Myxoid glioneuronal tumor(MGNT) ● 原田 太以佑
Multinodular and vacuolating neuronal tumor(MVNT)● 小路田 泰之
Supratentorial ependymoma, YAP1 fusion-positive ● 黒川 遼,黒川 真理子 ほか
Posterior fossa group A(PFA)ependymoma
Posterior fossa group B(PFB)ependymoma ● 黒川 真理子,黒川 遼 ほか
Spinal ependymoma,MYCN-amplified ● 黒川 遼,黒川 真理子ほか
Cribriform neuroepithelial tumor(CRINET) ● 小路田 泰之
CNS neuroblastoma,FOXR2-activated ● 黒川 遼,黒川 真理子ほか
CNS tumor with BCOR internal tandem duplication ● 上谷 浩之,平井 俊範
Desmoplastic myxoid tumor of the pineal region, SMARCB1-mutant
● 上谷 浩之,平井 俊範
Intracranial mesenchymal tumor, FET::CREB fusion-positive ● 池田 賢司
CIC-rearranged sarcoma ● 貝梅 正文,黒川 遼
Primary intracranial sarcoma, DICER1-mutant ● 黒川 遼,黒川 真理子 ほか
Pituitary blastoma ● 貝梅 正文,黒川 遼
【連載】
すとらびすむす
デフォルトモードネットワーク ● 原田 雅史
画像診断と病理
COVID-19 関連心筋炎 ● 荒木 俊,石田 正樹 ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
胸部画像診断-最近の論文から ● 小野 修一
CASE OF THE MONTH
CASE of September ● 久保 武
The Key to Case of July ● 大久保 豪祐,久保 武 ほか
読影レポートLesson
頭頸部編「弛緩部型中耳真珠腫」 ● 馬場 亮,竹下 祐平ほか
続General Radiology 診断演習
大きな所見に気を取られない ● 原田 太以佑 ・
投稿 症例
CT で肉眼的脂肪塞栓子を検出しかつ経過を追えた肺脂肪塞栓症の1 例
● 上地 栄輝,土屋 奈々絵ほか
Refresher Course
画像診断医にも知ってもらいたい現代の小線源治療 ● 増井 浩二