【特集】
序説 ● 豊田 圭子(東京慈恵会医科大学附属第三病院放射線部)
唾液腺や甲状腺・副甲状腺は外分泌腺あるいは内分泌線組織であり,頭頸部領域としては感覚器でないため寡黙な臓器である.発生する癌は,頭頸部癌で最多の扁平上皮癌は少なく,様々な組織型が生じ,画像診断ではチャレンジングな領域である.また,良悪性の鑑別に努めることと,耳下腺では内部を走行する顔面神経との位置関係が,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医からのコンサルテーションの主となる.一方で耳下腺には腺内リンパ節があり,免疫系やその他様々な特殊な炎症性疾患に,通常の読影やカンファレンスで遭遇する.コンベンショナルなMRIでも鑑別はある程度可能だが,近年では中枢神経系のMRI撮像法や新技術CTの進歩に伴い,頭頸部臓器にも焦点が当てられ様々なシーケンスが駆使され,診断が確立されている.
大唾液腺には顎下腺・舌下腺もある.顎下腺に腺内にリンパ節はなく,耳下腺と比較して悪性腫瘍の発生頻度は高い.一方で,内科系疾患や口腔内感染からの急性~慢性の炎症性疾患を被ることも多く,臨床医との密な連携が必要である.舌下腺はさらにコンパクトで被膜もない.小唾液腺は広い領域に在り,さらに控えめな小組織であるが,意外な所から小唾液腺腫瘍が発生する.甲状腺に関してはCT・MRIの他に,超音波や核医学検査を含めて総合的な診断が行われている.甲状腺癌は長い経過をもつ組織型があり,良悪性の鑑別は画像診断的にも難しく,PETを含め核医学検査がこれらの領域に必須である.画像診断は,術者である耳鼻咽喉科医との連携が必須である.
これらを考慮し,各項目を企画した.基本的な項目は杉村康一郎先生がわかりやすく丁寧にご解説くださった.MRIの定量評価の有用性については,田中史根先生に興味深く明確にご解説いただいた.耳下腺の炎症性病変のCT・MRI診断について加藤博基先生に整理していただいた.顎下腺・舌下腺といったコンパクトな大唾液腺については東美菜子先生にご解説いただいた.小唾液腺は正常では画像で認識しにくい“慎ましい臓器”であるが,その由来腫瘍性病変につき扁上皮癌との鑑別も含め,宮坂祐輔先生にご解説いただいた.甲状腺は内匠浩二先生に,現状での診断の詳細と,将来を見据えてdual energy CTやMRIの定量評価での診断能向上,また副甲状腺についてもご解説いただいた.新しい診断技術により画像診断の可能性は広がっている.唾液腺・甲状腺の核医学診断については横山幸太先生に,日常臨床での核医学診断,さらには将来的に期待されるPET検査にも言及いただいた.最後に,第一線で耳下腺の手術を多くされているエキスパートである岩井 大先生に,我々画像診断医が知っておくべきこと,求められていることを,外科医の立場からご解説いただいた.
執筆された放射線科の先生方には,ベテランから新進気鋭の先生もおられ,ご多忙な中でのご執筆に深謝する.本特集の執筆陣より,頭頸部領域の裾野が広がっていることがわかり,編者としては継承の役目も果たしたようで本当にありがたい.
私は,遡ること約16年前に『画像診断』で甲状腺・大唾液腺・涙腺などの特集「腺からみた頭頸部画像診断」(Vol.27 No.12, 2007)を企画したが,画像診断は大きく進歩していることを実感する.本特集により,画像診断医が唾液腺・甲状腺の画像診断をきわめる(究める・極める)ことを切に願う.
序説 ● 豊田 圭子
大唾液腺の解剖と腫瘤性病変 ─基本を学ぶ─ ● 杉本 康一郎,山内 英臣 ほか
耳下腺病変における定量MRIの臨床的有用性 ● 田中 史根,海野 真記 ほか
耳下腺の炎症性病変のCT・MRI ─腫瘍だけではなく炎症も多い─ ● 加藤 博基,川口 真矢 ほか
顎下腺・舌下腺のCT・MRI ─コンパクトな大唾液腺を診断する─ ● 東 美菜子,今田 真希
小唾液腺・口腔のCT・MRI ─小唾液腺腫瘍とは? 口腔に多くも其処のみに在るでなし─ ● 宮坂 祐輔,久野 博文 ほか
甲状腺・副甲状腺のCT・MRI ─温故知新,さらに新しきを知る─ ● 内匠 浩二,長野 広明 ほか
唾液腺・甲状腺の核医学検査 ● 横山 幸太,土屋 純一 ほか
唾液腺腫瘍の外科的治療と画像診断の重要性 ● 岩井 大,鈴木 健介 ほか
【連載】
すとらびすむす
変わりゆくもの 変わらないもの ● 國松 聡
TOPICS 【新連載】
ChatGPTは放射線科医に役に立つか? ─ChatGPTに聞いてみた─ ● 守田 裕一,和田 昭彦 ほか
Transferable Skills ─世界の学会が変化している─ ● 山田 惠
画像診断と病理
卵巣原発悪性リンパ腫 ● 城間 勇生,友利 由佳理 ほか
ここが知りたい!
画像診断2022年12月号特集
「診断に直結! ルーチンMRIに加えるべき鋭い撮像」
● 上谷 浩之,坪山 尚寛 ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
FAPI PETイメージング ● 立石 宇貴秀
CASE OF THE MONTH
Case of May ● 宮坂 祐輔,檜山 貴志 ほか
The Key to Case of March ● 浅原 涼子,野澤 久美子
続General Radiology診断演習
画像は真実を照らしている ● 金子 揚,松尾 政之
読影レポートLesson
循環器編「心筋血流シンチグラフィ」 ● 真鍋 治,相川 忠夫 ほか
Refresher Course
小児後頭蓋窩腫瘍の画像診断 ● 中井 雄大