【特集】
序説 ● 中村 尚生(聖マリアンナ医科大学放射線医学)
私が医師になったのは1995年,今から28年前になる.当時は,主治医チームが患者の診断や治療に対して絶対的な権限をもっていた.
CT室で造影剤を注射しながら指導医に読影の指導を仰ぎ,レポートを完成させていたのだが,入院患者の画像のフイルム(当時はPACSではない)ができ上がると,依頼科の研修医たちが,「レポートは後でいいです」とフイルムを病棟に持っていってしまう.入院患者の画像がそのようにして失くなるのだから,外来患者の読影が終了するとそのまま業務終了となった.結局,主治医の検討のみに終わり,公式のレポートはつかなかったのか,はたまた,退院してから何日も後の賞味期限切れのレポートを虚しく書いていたような記憶がある.当時,ある大学の術前検討のカンファレンスで,研修医が画像のプレゼンテーションを終えた後,「おまえ,放射線科のレポート読んだだろう.だから,そんな間違いになるんだ」というような叱責が飛んでいたという.
そのような時代から,「放射線科の力をみせつけよう」「第三者的な目で画像を判断しなければいけない」という先人たちの努力のおかげで,今や放射線科医およびそのレポートは,現代医療にはなくてはならない存在になっている.レポートも“既読確認”という,依頼医がそれを読んだかどうかのチェックが行われるのがスタンダードとなり,隔世の感を感じる.
立ち位置はかなり上昇した放射線科医だが,救急に携わる当直の若い先生をみていると,依頼医からの電話で画像所見を聞かれた際,すぐに質問に答えなければならない,あるいはすぐに診断名を出さないといけないと考えて追い込まれているのをしばしば目にする.自分も「少しだけ立ち止まって,考えてみよう」とよく言い聞かせているのだが,たとえ救急の場が一刻を争うからといっても,立ち止まる時間はあるはずである.間違った判断をするより,そうすることで様々な鑑別診断が思い浮かぶかもしれない.
マークシート試験で,最初の直感の方が当たっているから変えない方がよいといわれたことはないだろうか? 実は色々な実験をすると,迷った場合に直感よりも修正した答えの方が正解であることが多く,これを“最初の直感の誤謬”というそうである.直感は決して正しいわけではなく,追い込まれた時ほど,柔軟に様々な可能性を考慮することで正解にたどり着くことが多いらしい.
そこで,立ち止まった際に,考えるお供になる資料として,本特集を企画した.執筆者はいずれも現場で最前線に立っている方々ばかりで,とっておきの秘訣を披露してくださった.是非,手に取ってご覧いただければ幸いである.
序説 ● 中村 尚生
頭部救急におけるCT・MRIの意義と撮像法 ● 中村 尚生,藤川 あつ子
頭蓋内の病変と紛らわしい正常構造,アーチファクト ● 中野 翼,長谷川 知仁 ほか
小児頭部外傷 ─骨折をみつけよう─ ● 藤井 佳美,佐近 琢磨 ほか
頭蓋内血腫 ● 有薗 翔子,中村 尚生
脳内出血 ● 井上 明星
脳梗塞のCT ─初診時に亜急性期・慢性期の脳卒中を疑っても,脳梗塞と断定できる?─ ● 佐々木 美穂,井手 智 ほか
拡散強調像高信号 ─本当に脳梗塞?─ ● 安池 政志,赤澤 健太郎
【連載】
すとらびすむす
医療情報連携ネットワークと放射線科 ● 林 宏光
画像診断と病理
先天性角化不全症(Cole-Engman症候群) ● 大利 亮太,岩澤 多恵 ほか
ここが知りたい!
画像診断2022年11月号特集
「これだけは読めるように―乳癌画像診断のミニマルエッセンス」
● 森 美央,山口 健 ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
脳MRI ● 掛田 伸吾,佐々木 美穂
CASE OF THE MONTH
Case of April ● 益岡 壮太,檜山 貴志 ほか
The Key to Case of February ● 加藤 亜結美,相田 典子 ほか
続General Radiology診断演習
あっちもこっちも痛いのは? ● 曽 菲比,野上 宗伸 ほか
読影レポートLesson
呼吸器編「多発浸潤影」 ● 西本 優子
Refresher Course
核医学クイックレビュー 第3回 最近話題の核医学治療 ● 森 博史,若林 大志 ほか
「画像診断」各賞受賞者発表 第28回 MVP賞,第19回 BIE賞
CASE OF THE MONTH 2022年 成績優秀者発表