【特集】
序説 ●川原康弘
以前に,人と馬の膝関節の単純X線写真を比較したことがある.側面像でみると,人では大腿骨顆の曲率半径は後ろになるに従い小さくなる.脛骨高原の関節面は広く,脛骨結節は小さい.これに対して,馬では大腿骨顆の曲率半径は全体で同じである.脛骨高原の関節面は狭く,脛骨結節は大きく,強く突出している.屈伸時において,人では大腿骨顆は脛骨高原の広い関節面上を前後に移動しているが,馬では脛骨高原の関節面が狭く,大腿骨顆は関節面上をほとんど移動できない(おそらく,移動していない).馬は脛骨結節が強く突出しているため,大腿伸筋の筋力がテコの原理で増大されており,これが速く走ることに役立っている.人と馬では膝関節のバイオメカニクスが大分異なっていそうである.
2足歩行では4足歩行と比較して,膝関節にかかる荷重は大きいので,膝関節の耐久性をよくしなければならない.神様は脛骨高原の関節面を広くし,大腿骨顆の関節面での前後移動,それによる荷重の分散を可能にし,耐久性をよくしたのか? しかし,その代償で不安定性が増したのか? 2足歩行の膝関節は未完成なのか? 2足歩行は速く走る必要があまりなくなり,脛骨結節が小さいのか?……など考えたものである.人の膝関節疾患は非常に多いが,膝関節の解剖学的欠点も関与しているのかもしれない.
本特集のテーマは「膝関節のMRI」である.この領域はすでに成書や雑誌で取り上げられた特集がいくつかあるが,全体を網羅できていないのが現状である.たとえば,半月板・靱帯断裂の術後である.半月板,靱帯に異常信号の残存,治癒過程の経時的変化があり,術後の変化と再断裂の鑑別が困難なことがしばしばある.各術式における術後のみるべきポイント,特有な合併症もあり,その知識がないと評価は困難になる.また,画像診断をする上で,受傷機転,それによる損傷パターンについても理解しておく必要がある.それを知っておけば,読影の際に損傷の見逃しが少なくなる.
今回は基礎編として「半月板,靱帯の解剖」,「半月板断裂」,「靱帯断裂の代表的な受傷機序」を,応用編として「半月板断裂の手術療法と術後画像」,「十字靱帯断裂の手術療法」,「十字靱帯断裂の術後画像」,「膝蓋骨不安定症,膝蓋骨脱臼」,「その他の膝関節損傷」を項目とした.
膝専用コイルによる撮像に加えて,詳細な損傷評価のためにオプションとして高解像度コイルによる撮像を追加することもあるが,市中病院では膝専用コイルのみで検査を完結しなければならないことが多いのが現状である.このことも踏まえた上で,各項目について述べていただいた.
各担当の先生に執筆していただいた原稿はよくまとまっており,私自身も勉強になる内容が盛り込まれている.日常診療において役立つと期待している.
半月板,靱帯の解剖 ● 徳田 修
半月板断裂 ● 福庭栄治
半月板断裂の手術療法と術後画像● 和田 武,野崎太希ほか
靱帯断裂の代表的な受傷機序 ● 寺村易予,藤川 章ほか
十字靱帯断裂の手術療法 ● 岡崎成弘,米倉暁彦ほか
十字靱帯断裂の術後画像 ● 稲岡 努,小田島正幸ほか
膝蓋骨不安定症,膝蓋骨脱臼 ● 辰野 聡
その他の膝関節損傷 ● 小橋由紋子,野沢陽介ほか
【連載】
すとらびすむす
翻訳と画像診断 ● 松崎健司
画像診断と病理
悪性卵巣甲状腺腫 ● 尾上 薫,北井里実ほか
ここが知りたい!
画像診断2016 年1月号特集
「骨盤部感染症の画像診断─迅速な診断と治療のストラテジー─」
● 福永 健,上野嘉子
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
脊髄梗塞と馬尾 ● 森 墾
CASE OF THE MONTH
Case of June ● 奥田花江,小野優子ほか
The Key to Case of April ● 小野優子,西山佳宏
Refresher Course
子宮筋腫に対するMRガイド下集束超音波治療(FUS)
● 市川新太郎,大森真紀子