【特集】
序説 ● 井田正博
人口の高齢化に伴い,脳血管障害を有する症例が増加している.画像診断の日常診療でも“脳梗塞”は最も遭遇する,記載頻度の高い疾患のひとつである.脳血管障害のほとんどは急性発症だが,くも膜下出血以外は急性期において致死的になることはない.しかし,急性期の的確な診断と早期からの適切な治療開始がなければ,ラクナ梗塞ひとつであろうともそれが積み重なれば,重篤な機能的予後不良の原因になる.CTでは急性期脳出血は高吸収域,脳梗塞は低吸収域を呈することからその鑑別は容易であるし,さらにMR拡散強調像により超急性期脳梗塞の検出率が格段に向上した.しかし,画像診断が脳梗塞や脳出血の存在診断に留まっていては,脳卒中専門医による急性期治療にはほとんど寄与しない.救急現場において臨床に的確な診断を提供するためだけでなく,脳血管障害の画像所見を理解する上でも,脳動脈の解剖や病態病理,凝固・線溶系といった病態生理,さらに神経学的な臨床をひととおり学習しておくことが重要である.
ところが,血管病理や臨床の基礎を勉強するにもいまさら分厚い“神経病理学”や“神経内科学”の専門書を紐解く余裕はない.そこで今回,“脳血管障害−病態に基づいた画像診断−”と銘打って特集を企画した.神経病理と神経内科からの論文に加え,放射線科分野の各執筆者にも画像所見の解説のみならず,病態や臨床に多くを割いていただき,subspecialtyとして神経領域の画像診断を目指す初学者のみならず,神経領域以外を専門とする放射線科医にも理解できるような,日常臨床の読影に直結する実践的な解説をお願いした.
宮田 元先生には2009年の9月号にも執筆いただいたが,大変好評であったので,今回も寄稿をお願いした.本号においても脳血管の臨床病理の基礎と病態について,多数の病理像を用いて成書のような詳細な総説論文である.長尾毅彦先生には脳梗塞の病態生理について凝固・線溶系の観点から,また神経診察法についても脳卒中救急医の立場から解説いただき,画像診断に直結する実践的な内容になっている.
木下俊文先生と長畑守雄先生には,large artery infarctionとsmall artery infarctionという新しい切り口で執筆いただいた.長畑論文にあるようにlarge arteryとsmall arteryにはまだ厳格な定義がなく,特に穿通動脈については解明されていない部分が多々あるのだが,わが国で最も臨床経験の豊富なお二人の先生に,限られた誌面で簡潔かつ明快に思いのたけをまとめていただいた.
栗原紀子先生と久家圭太先生には“脳血管奇形ともやもや病”および“静脈洞血栓症と硬膜動静脈瘻”について解説をお願いした.両疾患とも誰でも既知の疾患名ではあるが,その解剖や病態,臨床像は複雑であり,それらを理解していないと適切な診断どころか,その診断のための適切なMRプロトコールを組むこともできない.
最後に久保優子先生にはinfarct mimicsとして低酸素脳症,低血糖脳症,一酸化炭素中毒症について解説いただいた.
これらの価値ある論文に触れて,脳血管障害の画像診断の理解がいっそう深まり,日々の診療に役立てば幸いである.
脳血管障害の病理を知る
−脳卒中の基本病態から血管病理そして神経病理へ− ● 宮田 元
画像診断に必要な脳梗塞の臨床と病態生理 ● 長尾毅彦
Large artery infarction
−脳塞栓症とアテローム血栓症− ● 木下俊文
Small artery infarction
−ラクナ梗塞と分枝粥腫型梗塞− ● 長畑守雄,近藤 礼ほか
脳血管奇形ともやもや病 ● 栗原紀子,加藤裕美子ほか
静脈洞血栓症と硬膜動静脈瘻 ● 久家圭太,藤井進也ほか
低酸素脳症,低血糖脳症,一酸化炭素中毒症
● 久保優子,内山史也ほか
【連載】
すとらびすむす
戦略と戦術 ● 山上卓士
画像診断と病理
卵管原発高異型度漿液性癌 ● 北井里実,福田国彦ほか
ここが知りたい!
画像診断2015年9月号特集
「ビギナーのための頭部画像診断−Q&Aアプローチ−」
● 高木 亮,森田奈緒美
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
肺腫瘍の画像診断 ● 小野修一
CASE OF THE MONTH
Case of February ● 木村成秀,小野優子ほか
The Key to Case of December ● 川井 恒
Refresher Course
腎機能障害とヨード造影検査
−造影剤腎症に対するリスク・患者評価とその予防を中心に− ● 林 宏光