【特集】
序説 ● 陣崎雅弘
今回は「腫瘍に対する分子標的療法の現状と画像評価」をテーマとして取り上げた.抗癌薬は,細胞傷害性抗癌薬,ホルモン薬・ホルモン拮抗薬,分子標的治療薬に大きく分けられる.従来,細胞増殖の機序を阻害する細胞傷害性抗癌薬が主に用いられてきたが,腫瘍だけでなく増殖の盛んな正常細胞も傷害するという大きな副作用を伴っていた.近年,癌の増殖に関連する分子あるいは分子シグナルを特異的に阻害する分子標的治療薬が開発されてきた.その治療薬は特定の分子を標的としているため,正常細胞への毒性が少なく,細胞傷害性抗癌薬より高い奏効性をもたらす.
画像診断は,治療方針の決定において重要な役割を担っている.これまでは,画像の対象になる病態として手術前評価の占める割合が大きく,その中で解剖学情報を提供する3次元診断学が進歩してきた.分子標的療法の登場により,細胞傷害性抗癌薬の時代に比べて,化学療法が治療法として選択される頻度が高くなってきた.これに伴い,化学療法の効果判定も画像の大きな役割になりつつある.各疾患において,どの分子標的治療薬がどのような役割として使用され,主治医が画像にどのような評価を求めているか,画像がどの程度実際に活用されているのか,さらには合併症の種類とその中で画像にて指摘しうるものが何かなどを理解しておくことは,画像診断を行う上で重要である.
本特集では,まず総論として,分子標的治療薬の基礎的な現状と今後の展開を,「分子標的療法の基礎的知識」として,実際に分子標的治療薬の研究をされている先生にご執筆をお願いした.oncogene addictionという概念や,分子標的治療薬の作用機序とそれに基づく分類などは,分子標的療法関連の講演を聞いたり論文を読んだりする際には必須の知識になるだろう.続いて解説される各論で記載されている分子標的治療薬がどのような分類に属するのかは,この総論に戻って見返すとわかるようになっている.
各論としては,現在の分子標的療法の主な適応疾患として,脳腫瘍,肺癌,乳癌,肝細胞癌,gastrointestinal stromal tumor(GIST),大腸癌,腎細胞癌,悪性リンパ腫を取り上げ,第一線で活躍しておられる先生方に,各領域で使用されている分子標的治療薬の紹介,それぞれの適応,そして画像評価がどの程度活用されているかを解説していただいた.これをみると,画像評価がすでにかなり活用されている領域と,そのような活用がまだ十分されていない領域があることがよくわかり,今後の研究に注目したい.
これまで,放射線科の世界であまり取り上げられることのなかった分子標的療法の現状と画像での治療効果判定を理解し,今後の臨床に役立てていただけたら幸いである.
分子標的療法の基礎的知識 ● 増田健太,佐谷秀行
脳腫瘍 ● 増本智彦
肺癌 ● 遠藤正浩,朝倉弘郁ほか
乳癌 ● 町田洋一,戸崎光宏ほか
肝細胞癌 ● 小林 聡,香田 渉ほか
GIST ● 村上康二
大腸癌 ● 白神伸之,鈴木秀明ほか
腎細胞癌 ● 中井川 昇
悪性リンパ腫 ● 立石宇貴秀
【連載】
すとらびすむす
忙しい中で“無為自然”の心構え ● 佐藤秀一
画像診断と病理
精上皮腫 ● 吉田理佳,吉廻 毅ほか
ここが知りたい!
画像診断2015年1月号特集
「鼻副鼻腔領域の画像診断 ─minimum requirement─」
● 加藤博基,浮洲龍太郎
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
神経放射線:polymer emboli ● 森 墾
おさえておきたい! PET/CT診断のポイント
第6回 消化器(食道,胃,大腸) ● 北島一宏
CASE OF THE MONTH
Case of June ● 上村清央,中條正典ほか
The Key to Case of April ● 中條正典,上村清央ほか
Refresher Course
脊椎関節炎 ─その概念,病態,診断について─ ● 福庭栄治