序説
酒井 文和
感染症の画像所見は，多彩であると言われている．また，感染症診断のゴールド・スタンダードは，細菌学的あるいは血清学的検査であることも事実である．感染症は，腫瘍やびまん性肺疾患よりもさらにダイナミックで，急速に変化する病態が多い．腫瘍性疾患のように，比較的のんびりとradiology pathology correlationを行って，画像所見の病理的背景を突き詰めることもなかなかできない．病理所見が得られたとしても，画像が撮影された時とは，大きく形態が変わってしまっていることが多い．これらの不利な点が，感染症の画像診断を難しくしている原因であろう．
これらの不利な点を乗り越えて，感染症の画像診断を整理し，系統的に理解するのには，感染症の病態に基礎を置いた画像診断を考える必要がある．感染症は，ただ病原体が生体内に存在するから起きるものではない．感染症とは，病原体に対して，宿主が一定の反応を起こして，病原体と宿主反応のバランスの上に成り立つ文字どおりダイナミックな病態なのである．宿主に生じる組織障害は，病原体の持っている組織障害性にもよるが，宿主の反応が組織障害を引き起こす原因にもなる．その意味で感染症はアレルギー反応と表裏一体の関係にある．
感染症の画像診断を正確に理解し，整理するには，宿主反応性から見た整理が必須である．宿主反応性と言ってもそう単純ではない．同じ免疫不全と言っても，人体の感染防御機構は，きわめて複雑なシステムを持っており，どの部分が障害されるかによって，病態が異なる可能性が大きい．感染症画像所見を，これからさらに整理するためには，放射線診断医も免疫学の勉強をしなければならないと考えている．
本特集では，感染症画像診断の基礎的な事項をまとめた．若い読者諸氏は，免疫学の基礎知識も我々の世代よりずっと豊富であろう．感染症画像診断の基礎を習得した後，この特集の内容に満足することなく，基礎知識を応用して所見の新たな解釈や意味づけなど，感染症画像診断の進歩に寄与してもらいたいと希望している．

特集
呼吸器感染症最近の動向
細菌性肺炎
肺抗酸菌症
真菌感染症
マイコプラズマ・呼吸器ウイルス・クラミジア感染症
ニューモシスチス肺炎とサイトメガロウイルス肺炎
感染症と非感染症の鑑別
●連載目次●
すとらびすむす
「画像診断」創刊30周年
荒木 力

画像診断と病理
卵巣未分化胚細胞腫
伊藤 雅人，原 眞咲ほか

ここが知りたい！
画像診断2009年11月号特集
「男性泌尿生殖器疾患の知識と画像診断」
楫 靖，河邊 哲也ほか

胸部画像診断24のポイント
肺野の透過性を読む
野間 恵之

Picked-up Knowledge from Foreign Journals
改訂された婦人科腫瘍の病期分類（新FIGO分類，2009）
片岡 正子

CASE OF THE MONTH
Case of April
北村 弘樹，高尾 正一郎ほか
The Key to Case of February
森田 奈緒美，高尾 正一郎ほか

Refresher Course
CTガイド下肺生検の実際
平木 隆夫，金澤 右

第15回「画像診断」MVP賞
第6回「画像診断」 Best Invited Editor賞受賞者発表
CASE OF THE MONTH 2009年成績優秀者発表