【特集】
序説 ● 祖父江 慶太郎(神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野)
わが国における肝細胞癌患者の生存率は世界でも群を抜いています.その理由のひとつに,わが国で研究・開発されてきた精緻な画像診断や病理診断,肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization;TACE)をはじめとした局所治療が多大な貢献をしてきたことが挙げられます.これらの診断・治療技術は先駆者の先生方の知恵と経験の積み重ねにより進歩を遂げ,肝細胞癌の診療において世界をリードしてきたことは周知の事実です.現在,癌医療は患者や腫瘍の状態を早期に判断し,その結果に応じて最適な治療法を選択する個別化医療へと進化することが期待されています.多様な慢性肝炎からの発癌,多中心性発癌などの特殊性はあるものの,肝細胞癌においても同様の議論がなされており,非侵襲的な画像診断がその一端を担っていることに間違いありません.
近年,肝細胞癌の診療は薬物療法の進歩によりパラダイムシフトを迎えました.2021年に『肝癌診療ガイドライン』が改訂され,分子標的薬に加えて免疫チェックポイント阻害薬が一次治療として加わったことで,治療アルゴリズムは大きく変わりました.また,切除不能肝細胞癌に対する分子標的治療や複合免疫療法の導入により,Barcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)分類におけるintermediate stage Cのみならずstage Bにおいても薬物療法の適応が広がってきています.病理診断においては,薬物療法の進歩に伴い従来の組織病理学的分類に加えて腫瘍免疫微小環境を基にした分類・評価の重要性が唱えられています.肝細胞癌の局所治療であるTACEの位置づけにも変化がみられ,これまで以上に根治を目指した治療としての役割が求められ,治療選択基準の再考や薬物療法との併用についても研究が進んでいます.他方,画像診断は薬物療法の治療効果判定の標準法として肝癌診療ガイドラインで定められており,超音波検査,CT,MRIそれぞれの特徴や利点を最大限に発揮することで,腫瘍内の血流変化や分子病理学的特徴をとらえて治療効果判定予測や予後予測に役立てる画像バイオマーカーとしての有用性が期待されています.さらには,客観的・定量的に画像を評価するradiomicsや,深層学習による肝細胞癌診断や組織学的評価・予後予測の研究も発展しています.
本特集では,肝細胞癌に対する薬物療法やTACE,病理診断の最新トピックスを各診療科の専門の先生方に,画像診断の有用性やAIを含む最先端診断をエキスパートの先生方にご執筆いただきました.いずれの先生方も臨床・研究・教育業務でご多忙のところ,豊富な臨床経験とご自身の研究に裏打ちされた専門性の高い総説をご寄稿いただき,大変感謝しています.読者の皆様が本特集を通して肝細胞癌の診断・治療に対する最新の知見を得て理解を深めることにより,明日からの日常診療に役立てていただければ幸いです.
序説● 祖父江 慶太郎
肝細胞癌に対する薬物療法の進歩 ● 青木 智子,上嶋 一臣 ほか
薬物療法時代におけるTACE の位置づけ ● 西尾福 英之,田中 利洋
肝細胞癌における免疫微小環境の病理学的分類 ● 紅林 泰
超音波検査による肝細胞癌の画像診断 ● 恵荘 裕嗣
CT による肝細胞癌の画像診断 ● 中村 優子,近藤 翔太 ほか
MRI による肝細胞癌の画像診断 ● 北尾 梓,米田 憲秀 ほか
人工知能を応用した肝細胞癌のCT・MRI 診断 ● 八坂 耕一郎
TAE/TACE に伴う腫瘍免疫微小環境の変化 ● 上嶋 英介,祖父江 慶太郎 ほか
【連載】
すとらびすむす
リモート会議・講義の課題 ● 玉木 長良
画像診断と病理
巨大な石灰化上皮腫 ● 土屋 奈々絵,西江 昭弘 ほか
ここが知りたい!
画像診断2022年10月号特集
「AYA 世代にみられる疾患の画像診断」
● 久野 博文,五十嵐 紗耶
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
COVID-19 画像診断・パンデミック3 年後の現状 ● 小野 修一
CASE OF THE MONTH
Case of March ● 浅原 涼子,野澤 久美子
The Key to Case of January ● 浅原 涼子,野澤 久美子
続General Radiology診断演習
鑑別は足りているか ● 黒川 遼
読影レポートLesson
骨軟部編「凍結肩(肩関節周囲炎,癒着性関節包炎)」 ● 福田 健志
Refresher Course
核医学クイックレビュー 第2回 核医学検査 ― その2 腹部 ― ● 井上 優介