STOP!メディケーションエラー ふるかわ先生の計算脳トレーニング
問題を解くための基礎知識
 シリーズ第1回では,注射剤のラベルに書かれている数字と単位について学習しました. 第2回では,第1回で説明した「mL」「mg」「%」以外の主な単位(「国際単位」「µg」「mg/kg(重量/体重)」「ng/kg/min(重量/体重/時間)」「mg/m²あるいはng/m²(重量/体表面積)」)について学習しました.正しい計算方法を理解し,正解にたどりつくことができましたか?
 第3回目となる今回は,実際に投与する場面で遭遇する「点滴速度」と「1分間あたりの投与滴下数」についての計算方法を学びます. 例題を入れながらていねいに説明していますので,一度とおして読んでみてください. また,忘れてしまったときや再確認のために必要な箇所だけ目をとおし,繰り返し学習することをお勧めします.
 では今回は,輸液ポンプと輸液セットの滴下数の統一期日が迫っていますので, その内容や表示されている滴下数の意味などの説明から始めましょう.
 これまで,輸液ポンプと輸液セットの滴下数は,1mLあたり15滴,19滴,20滴,60滴の4種類がありました. このうちの1mLあたり60滴のものは,小児に使用されています.
 ところが,2009年4月1日以降は,滴下数の規格が国際規格に合わせるために, 1mLあたり20滴と60滴の2種類だけになります.つまり,これまでの15滴と19滴のものは販売されなくなるわけです.
 輸液ポンプには,①流量制御型と②滴下数制御型の2種類があります.今回の統一によって影響を受けるのは, ②滴下数制御型の輸液ポンプです.最近の機種では20滴の設定ができる仕様となっているポンプもありますが, 変更できないものもあります. 使用中の輸液ポンプのメーカーに確認する必要があります.したがって,これからは滴下数を「20滴」に設定変更を行うか, 変更ができない場合は,新しい機器の購入を検討する必要があります.20滴への設定変更が可能な機種には, それを知らせるラベルが貼られています.
写真1
滴下数「20滴」への設定変更が
可能なことを知らせるラベル
写真2
輸液ポンプ(テルモ株式会社)
予定量と流量を別々に表示
 また,輸液セットを使用するときも,製品の外袋(包装)に印刷されている滴下数の確認が必要です. 2009年3月末までに,院内在庫の15滴と19滴の輸液セットを使い切り,2009年4月以降は20滴用のものを購入することになります.
写真3 写真4 写真5
20滴用輸液セット 輸液ポンプを用いて投与 一般的な輸液セット(ニプロ株式会社)
輸液ポンプと輸液セットの滴下数の統一について,さらに詳しいことを知りたい方は,次のホームページをご参照ください
●輸液ポンプの承認基準の制定等に伴う医療機関等の対応について(薬食発第1124002号医薬食品局長通知)
http://www.info.pmda.go.jp/iryoujiko/file/20051124.pdf
●医薬品医療機器情報提供ホームページ
http://www.info.pmda.go.jp/anzen_gyoukai/yueki.html
●日本医療器材工業会のホームページ
http://www.jmed.jp/jp/top_story/topics_061222_1.php
 日本医療器材工業会は,厚生労働省によって新たに安全性基準が設定された医療機器について, 医療事故防止対策品であることを容易に確認できるよう,業界の自主基準として「適合品マーク」を表示しています. マーク貼付については,公正性や透明性を高めるために,外部の専門家(医師、臨床工学技士や看護師等) を含む「適合品マーク評価委員会」で判定しています. 「適合品マーク」を貼付できないと判定された製品に対しては,新たに改良を加えて申請し直すように指導しています.
 「適合品マーク」は,「Safety」の「S」を図案化したもので,このマークを取得した製品については,同会のHPに掲載されています.
適合品マーク
適合品マーク
 輸液セットの包装に表示されている「20滴1mL」というような1mLあたりの滴下数表示は, 蒸留水あるいは生理食塩液での値です.たとえば,抗がん薬「パクリタキセル(商品名:タキソール等)」 のような非水性の注射液で輸液で希釈された薬液は,表面張力が低下して1滴の大きさが生理食塩液などに比べて小さくなります. このため,自然落下方式で投与する場合に,輸液セットに表示されている滴下数で投与速度を設定しますと, 目標に比べて投与速度が低下するため,滴数を増加させて設定する等の調整が必要です. また,同様に,滴下数制御型輸液ポンプを用いる場合も,流量を増加させて設定するなどの調整が必要です.
輸液セットの構造
輸液セットの構造
 輸液ボトルや輸液バッグ本体に「500mL」などと含有液量が表示されていますが, 正確に500mLが入っているわけではありません.一般に注射液は, ラベルに表示されている容量(液量)よりも多い液量が充填されています. この過量分は,「日本薬局方」という公定書で定められています.たとえば,液量が「500mL」と表示されている輸液製剤では, 約10mL程度の過剰の薬液が充填されており,滴下数を厳密に守ったとしても, 終了予定時間に約10mLの液がボトルあるいはバッグ内に残ることになります.
大塚生食注500mLソフトバッグ
大塚生食注500mLソフトバッグ(大塚製薬)
<例題1> 500mLの生理食塩液のバッグを「4時間で点滴静注」との処方がでた.「20滴1mL」の輸液セットを用いて自然落下方式で投与する場合,1分あたり何滴を落下させればよい?
約21滴 約42滴 約63滴 約84滴
<例題2> 500mLの生理食塩液のバッグを「4時間で点滴静注」との処方がでた.「20滴1mL」の輸液セットを用いて, 輸液ポンプで投与する場合,1時間あたりの液量はどれだけに設定すればよいか?
50mL 75mL 100mL 125mL
古川先生 さて次からいよいよ本番です.
ここまで学んできた「点滴速度」と「1分間あたりの投与滴下数」 に関する基礎知識をもとに,実際に点滴速度と滴下数の計算をしてみましょう.
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