STOP!メディケーションエラー ふるかわ先生の計算脳トレーニング
問題を解くための基礎知識②
 シリーズ第1回では, 注射剤のラベルに書かれている数字と単位について学習しました. 正しい計算方法を身につけ,正解にたどりつくことができましたか?  さて,前回の問題をご覧になったある医師から, 「処方時に自動的に換算する機能を処方オーダリングシステムに備えれば, 計算トレーニングはいらないのではないか」というコメントをいただきました. 確かに,コンピュータに換算機能を組み込めば,自動的に計算されます. しかし,コンピュータが故障あるいは一時的に停止する場合も考えられます. また単位の意味を理解しないまま機械的に入力するたけでは,算出された数値自体が妥当かどうかの判断もできません. そうしたこともふまえて,ここでは臨床現場で最低限必要と思われる計算力を養っていきたいと思います.

 第2回となる今回は,第1回で説明した「mL」,「mg」,「%」以外の, 主な単位について学びます. 具体的には,医薬品の成分量を表す「国際単位」や「µg」,投与量を表す「mg/kg(重量/体重)」,「ng/kg/min(重量/体重/時間)」と「mg/m²あるいはng/m²(重量/体表面積)」などです.
 以下では例題を入れながら丁寧に説明していますので,一度とおして読んでみてください. その後は,忘れてしまったり確認のために再度必要な箇所だけ目をとおし,繰り返し学習することをお薦めします.
インスリン製剤では「単位」, インターフェロン製剤の製剤ラベルでは「国際単位」, プロスタグランディンE1製剤では「µg(マイクログラム)」という単位の表示がみられます. これらは,生体成分由来の物質で多く使用されている単位です.
 インスリンは1921年に発見され,医薬品として製造が開始されましたが,インスリンの力価はロットごとや製造会社ごとにバラツキがありました. そこで,1924年にインスリン標準品を調製する動きがあり,1925年に8単位=1mgと定義されることになりました. これが最初のインスリン国際標準品です.
 その後,インスリン製造技術が急速に進歩し,1958年には24単位=1mgとなり,精製技術がより進歩したことにより,1987年にはヒトインスリン26単位=1mg(1mg=26単位)と定義されました. しかしながら,世界的に,インスリンの成分表示は,「単位(Unit)」という単位が使用されています.
 「単位」という表示は生物由来成分の医薬品に多く用いられており,他には,血液凝固作用を持つ「ヘパリン」製剤は,インスリンと同じ「単位」という単位,また,抗ウィルス作用をもつインターフェロンや成長ホルモン製剤では,「国際単位(IU:International Unit)」という単位が使用されています.
写真1
インスリン製剤
(ノボリンN注100:ノボノルディスクファーマ)
写真2
インターフェロン アルファ製剤
(スミフェロン300:大日本住友)
※一部のインターフェロンは,成分量をµgで表示している
1mL=何単位?
ノボリンN注100は, 10mL入りのバイアルに1,000単位,つまり1mL当たり100単位のインスリンが含まれています. 計算の基本は,1mLの中に含まれている薬効成分の量(ノボリンN100の場合は100単位)を知ることです.
<例題1> ノボリンN注100を10単位皮下注射したいが,その薬液量は?
0.01mL 0.1mL 10mL
古川先生 インスリン製剤に関するミニ知識
 ・インスリン製剤の商品名の末尾の英数字の意味は?
 一部の医薬品の製剤ラベルには「µg」(マイクログラム:microgram)や「ng」(ナノグラム:nanogram)という単位が使用されています. この「µg」と「ng」は手書きの場合,読み違えることもあるので,必ず確認してください. また,「mg」(ミリグラム:milligram)に比べると使用される機会が少ないので,「mg」と混同する危険性があります.
µg(マイクログラム microgram)とは?
「µg」は「mg」の1000分の1で,ガンマ(γ)と同じです.
ng(ナノグラム nanogram)とは?
プロスタグランディンE1製剤(パルクス注)の添付文書の用法用量には「ng」と書かれています. 「nano」は「micro」の1,000分の1,「milli」の100万分の1. つまり「ng」=10億分の1gであり,非常に微量です. こんな少ない量で作用するのですから, パルクス注の有効成分であるアルプロスタジルは,いかに作用が強い物質かということがわかります.
写真3
プロスタグランディンE1製剤
(パルクス注:大正富山医薬品)
 医薬品の投与量は,患者の体重や体表面積に比例しているため,添付文書の用法用量には, 「mg/kg(重量/体重)」や「mg/m²あるいはµg/m²(重量/面積)」, 「ng/kg/min(重量/体重/時間)」などの単位が使われています.
 多くの医薬品,特に小児用では,添付文書の『用法用量』に,体重1kg当たりの量(mg/kgやµg/ kg)が表されています. 薬理作用を表すために必要な投与量が,患者の体重と比例関係にあるからです.
 たとえば,気管支喘息の治療に用いる「アミノフィリン(ネオフィリン注250:エーザイ)」では, 「小児には1回3~4mg/kgを静脈内注射する. 投与間隔は8時間以上とし,最高用量は1日12mg/kgを限度とする. 必要に応じて点滴静脈内注射する」と記載されています.
 体重1kg当たりの量(mg/kgやµg/kg)で表されている場合は, 患者の体重を乗じて投与量を算出します.
<例題2> 1回量を3mg/kgとして,体重10kgの患者にネオフィリン注(250mg/5mL)を投与するときの薬液量は?
0.06mL 0.12mL 0.6mL 1.2mL
 抗がん剤など一部の医薬品では,投与量を体表面積当たりで表すことがあります. 体表面積は体重と身長から計算されるため,体重のみより薬理作用との関係をより正確に表すと考えられます.
 たとえば,がん化学療法による好中球減少に対して投与されるフィルグラスチム(グラン注:キリンファーマ)の用法用量は, 「通常,がん化学療法剤投与終了後(翌日以降)で骨髄中の芽球が十分減少し末梢血液中に芽球が認められない時点から, フィルグラスチム(遺伝子組換え)200µg/m²を1日1回静脈内投与(点滴静注を含む)する. 出血傾向等の問題がない場合はフィルグラスチム(遺伝子組換え)100µg/m²を1日1回皮下投与する」と, 体表面積当たりの量で表されています.
簡単ではありませんが,体表面積は次の式で計算できます.
体表面積(m²)=体重(kg)0.425×身長(㎝)0.725×0.007184
※体重と身長の数値を入力するだけで計算してくれるサイトもあります.
http://www.ne.jp/asahi/akira/imakura/Hyomenseki.htm
<例題3> 体重60kg,身長165㎝(体表面積:1.659m²)の患者に,グラン注を200µg/m²を1日1回静脈内投与する場合の量は?
約3.3µg 約33µg 約330µg 約3,300µg
 一部の医薬品では,投与量を「mg/kg/min」のように,<1>時間当たりと<2>体重当たりの2つで表しているものもあります. つまり,医薬品成分の重さを示す「mg」,体重を示す「kg」,そして,時間を示す「min」という3つの単位の組み合わせです. まず,「mg/kg」という単位は,体重1kg当たりの医薬品成分の重量(mg)を表しています. 実際の投与量は,患者の体重(kg)を乗じることによって算出できます. これに「時間 min」が付くと,時間当たり, つまり1分当たりの投与量(mg/kg)を表します.
 たとえば,パルクス注(プロスタグランディンE1製剤)を「動脈管依存性先天性心疾患における動脈管の開存」のために投与する場合, その投与量は,「輸液に混和し,開始時アルプロスタジル5ng/kg/minとして持続静注し,その後は症状に応じて適宜増減して有効最小量とする」と書かれています.
<例題4> 「動脈管依存性先天性心疾患における動脈管の開存」のために,体重が3kgの患者さんにパルクス注を1時間かけて投与する場合(5ng/kg/min)の薬液量は?
0.018mL 0.18mL 1.8mL 18mL
古川先生 さて次からいよいよ本番です.
ここまで学んできた単位に関する基礎知識をもとに,実際に投与量の計算をしてみましょう.
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