【特集】
序説 ● 似鳥俊明
心臓の2つの房室弁で二尖の方だけなぜ“僧帽弁”と呼ぶのだろう? これは赤地に金刺繍の豪華な“ミトラ(イタリア語 mitra)”という名のカトリック司教冠にそっくりだからである.背中の筋肉“僧帽筋”は逆に,すべての人は清貧に生きるべきとするフランチェスコ派修道僧のマントに付いたフードから来ている.“STAR WARS”のジェダイの騎士がよく似たものを着ているが,土色のきわめて粗末なものである.キリスト教圏での解剖名は両者を厳格かつ明確に区別するが,我々の教科書では“僧の帽子”と素っ気なくひとまとめである.体に2つも信仰の象徴をもっていることなど気に留めない.
これは医学用語に痕跡が残った一例にすぎないが,そもそも西欧文明における科学の活動の根底にあるのは,宗教的な動機といってもいいようである.特にプロテスタントの宗旨が支えているとされている.神が世俗界の進歩と利益追求の姿勢すら支持し,その普及を応援するとされる.東洋の文明や経済感覚とは全く異なる背景がある.
米国の人気スポーツは,野球,バスケットボールなど旧大陸になかった,わざわざ作り出したものである.清教徒を中心としてはいるが,様々な背景をもつ移民たちが対等に楽しめるように発明し,ルールを決めて意識的に広めたものである.何かにつけ少し押し付けがましい彼の国の背景がみえてくるような気がしないだろうか?
すべてのものにはそうなった背景がある.なぜここに至ったか,数々の事象を紡ぎ合わせながら空想を巡らす.これが歴史書を読む楽しみである.
一般の世界史全集はそれぞれの専門家による分担執筆だが,1人の手による全集が実は何種類もある.例えばヨーロッパ近現代史が専門のJ.M. Robertsによる10巻本.日本では創元社から出版されているが,彼は人類の起源から現代までの長い時間の間に広い場所で起こった出来事と,その背景を2700ページをかけてわかりやすく説いてゆく.長期的にみて人間の社会に広く大きな影響を及ぼしたと思われる歴史的事実の意識的な取捨選択を行いながらである.これらを読み進むことは実に痛快である.個々の事象の関連,歴史の流れがとても明確になる.分担執筆の全集からは味わえない喜びが感じられる.
general radiologistは世界通史の単一著者とその読者のいずれにも近い喜びをもてるのではと思えないだろうか? 単一の臓器ではなく人体のすべての領域を広く担当することで,解剖,生理,病理の背景にある生物としての普遍的ルールもみえてくるはずである.そうでない人からみたら,なかなかのことである.業務多忙の中でそんな得がたい立ち位置を見失いがちかなと,少しだけ心配である.
ペアである先月号序文の主旨は循環器疾患という残されたフロンティアへの勧誘だったが,今回は本来広い領域を背景とするgeneral radiologistに,さらにその自覚と主体性をもって楽しみを深めようとの檄としたつもりである.
血管疾患の定義は難しいが,本特集では原則として臓器内血管を除いた大血管,中血管(Chapel Hill consensus参照)の病変を対象としたことを最後に記し,少しユニークな序文とする.
1. 胸 部
大動脈弓部とその分枝の形態異常 ● 長山 拓希,福田 俊夫ほか
大動脈縮窄症 ● 佐久間 亨,大内 厚太郎
胸部大動脈瘤 ● 吉岡 邦浩,田中 良一
外傷性大動脈瘤 ● 吉岡 邦浩,田中 良一
大動脈解離 ● 村上 健司,小川 普久ほか
偽腔閉塞型大動脈解離 ● 村上 健司,小川 普久ほか
penetrating atherosclerotic ulcer(PAU)● 村上 健司,小川 普久ほか
Marfan症候群 ● 佐久間 亨,大内 厚太郎
高安動脈炎 ● 吉岡 邦浩,田中 良一
左上大静脈遺残,重複上大静脈 ● 長山 拓希,福田 俊夫ほか
総肺静脈還流異常 ● 佐久間 亨,大内 厚太郎
部分肺静脈還流異常 ● 佐久間 亨,大内 厚太郎
急性肺血栓塞栓症 ● 岡田 宗正,野村 貴文ほか
慢性肺血栓塞栓症 ● 岡田 宗正,野村 貴文ほか
肺動静脈瘻 ● 中島 好晃,岡田 宗正ほか
気管支動脈出血 ● 中島 好晃,岡田 宗正ほか
ステントグラフト留置術 ● 野村 貴文,岡田 宗正ほか
胸郭出口症候群 ● 野村 貴文,岡田 宗正ほか
2. 腹 部
腹部大動脈瘤 ● 田村 全,奥田 茂男ほか
破裂腹部大動脈瘤 ● 田村 全,奥田 茂男ほか
炎症性大動脈瘤 ● 須山 陽介,奥田 茂男ほか
感染性大動脈瘤 ● 須山 陽介,奥田 茂男ほか
内臓動脈瘤 ● 塚田 実郎,奥田 茂男ほか
腹部限局性大動脈解離 ● 塚田 実郎,奥田 茂男ほか
Leriche症候群 ● 奥田 茂男,中塚 誠之ほか
腸間膜動脈閉塞症 ● 長谷川 哲也,木下 知ほか
非閉塞性腸間膜虚血 ● 長谷川 哲也,木下 知ほか
消化管出血 ● 木下 知,長谷川 哲也ほか
結節性多発動脈炎 ● 木下 知,長谷川 哲也ほか
腎動脈狭窄症(動脈硬化性) ● 長谷川 哲也,木下 知ほか
線維筋性異形成 ● 長谷川 哲也,木下 知ほか
nutcracker症候群(左腎静脈捕捉症候群) ● 木下 知,長谷川 哲也ほか
Budd-Chiari症候群 ● 桑子 智之,林 宏光ほか
重複下大静脈 ● 桑子 智之,林 宏光ほか
下大静脈後尿管 ● 桑子 智之,林 宏光ほか
下大静脈欠損奇静脈連結 ● 桑子 智之,林 宏光ほか
下大静脈フィルター ● 桑子 智之,林 宏光ほか
3. 四肢末梢
遺残坐骨動脈 ● 三田 祥寛
閉塞性動脈硬化症 ● 三田 祥寛
糖尿病性血管障害 ● 三田 祥寛
Buerger病 ● 三田 祥寛
膝窩動脈捕捉症候群 ● 三田 祥寛
深部静脈血栓症 ● 星 俊子,墨 誠
下肢静脈瘤 ● 星 俊子,墨 誠
Klippel-Trenaunay症候群 ● 星 俊子,墨 誠
透析シャント不全(dialysis shunt failure) ● 苅安 俊哉,横山 健一ほか
【連載】
すとらびすむす
画像診断と絵心・写真心 ● 土屋 一洋
画像診断と病理
胃型分化型胃癌 ● 清水 建策,松永 尚文
ここが知りたい!
画像診断2015年3月号特集
「気道疾患のすべて ─基礎からup-to-dateまで─」
● 髙橋 雅士,中園 貴彦ほか
CASE OF THE MONTH
Case of August ● 岩野 信吾,長縄 慎二
The Key to Case of June ● 上村 清央,中條 正典ほか
Picked-up Knowledge from Foreign Journals
COPDの画像診断 ● 小野 修一
おさえておきたい! PET/CT診断のポイント
第8回 泌尿器・男性生殖器 ● 北島 一宏
Refresher Course
真珠腫のCT診断 ● 外山 芳弘